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日常時にも非常時にも役立つフェーズフリーな商品やサービスによって、私たちの暮らしはどのように変わるのでしょうか。
「PHASE FREE CONCEPT & GUIDEBOOK for School」は、フェーズフリーを学校教育に導入することの意義や目的を分かりやすく説明し、具体的な実践事例やアイデア等を紹介するガイドブックです。PHASE FREE AWARD 2021では事業部門のゴールドを受賞しました。
このガイドブックには、日常時の教育の質を向上させると同時に非常時への意識を高める“フェーズフリーな教育”の実践例が掲載されています。その具体的な活用シーンと優れた特徴をお伝えしましょう。
授業や学校生活に即した事例で日常の教育の質を向上させる
PHASE FREE CONCEPT & GUIDEBOOK for School は、いつもの授業や学校生活においていつ・どこで・だれのために・何を提供してくれるのでしょうか。
このガイドブックでは、子どもたちの主体的・対話的で深い学びを実現することを目的として、普段の学習に災害の視点を取り入れることを提案しています。
この手法のメリットは、子どもたちが学習や学校活動を通じて自然に防災の知識やスキルを身につけられる点と、学習内容と災害の両方を“自分ごと”として捉えられる点です。
例えば小学5年生の算数の授業では、津波の速度と自分の50m走のタイムとを比較しながら速さの計算を学ぶ例が紹介されています。
子どもたちは「津波の速度は秒速10mである」と知ることで、災害に関する知識を身につけることができます。また、自身の50m走の速さと比較することで「全速力で走っても追いつかれる」という気づきを得ることもできます。
授業を受けた子どもからは「キリンが走る速さは普段使わないけど津波の速さは重要」など、自分ごととして興味を持って学んだことが伺える感想が聞かれました。
このようにPHASE FREE CONCEPT & GUIDEBOOK for School は、子どもたちの主体性を引き出し、日頃の学校教育の質を向上させてくれます。
もしもの時も適切に行動できる知識やスキルを身につけさせる
次にPHASE FREE CONCEPT & GUIDEBOOK for School に基づく教育が、もしもの時にいつ・どこで・だれのために・何を提供してくれるのかイメージしてみましょう。
このガイドブックを参考に、学校生活の全ての時間にフェーズフリーの考え方を採り入れることで、児童や生徒のみならず学校関係者全員が災害への意識を高め、非常時に適切に行動するスキルを身につけることが可能です。
ある中学校の体育の授業で持久走のやり方を変更した例では、生徒たちが自発的に“津波より早く避難場所に到達できるのか”、“家で被災した場合に家族と共に迅速に避難できるのか”など、災害時の行動を具体的に考え始めたそうです。
通常の持久走では、一定の距離を全員が同時に走ってタイムを競います。しかしその中学校では、津波警報が発令されてから学校に到達するまでの15分30秒の間にどこまで走れるか、一定の時間に移動できる距離を競いました。
このような変更を行ったのは、ガイドブックを作成した徳島県鳴門市が”鳴門の渦潮”で有名な関門海峡に近い海辺の自治体であり、常に津波の危険にさらされているためです。
これまで教育の現場では、専任ではない教員が教務の合間に時間を捻出し、担当者として地域の特性に応じた防災教育を行ってきました。
しかしこのガイドブックを活用すれば、時間やコストの負担を減らしつつ、学校生活のあらゆるシーンで非常時への対応力を高めることができます。また、日常時の学校生活にも役立つ教育であるため、無理なく継続することが可能です。
このようにPHASE FREE CONCEPT & GUIDEBOOK for School は、あらゆる学校で地域の実情に合わせた災害への意識向上を可能にし、非常時の私達の安心・安全をサポートしてくれます。
フェーズフリーな学校教育の機能とは
日常時も非常時も幅広いシーンで活用できることがフェーズフリーな商品・サービスの特徴ですが、私たちの生活の質(QOL)を向上させる効果が期待できることも重要です。これらの性質を「常活性」と呼びます。
このガイドブックの実践例を参考に授業等を行うことによって、普段から非常時にも役立つ知識やスキルを用いて子どもたちの学力を向上させ、災害への対応力を身につけさせることができます。言い換えれば、日常時・非常時のフェーズを超えて幅広く生活の質(QOL)を向上させる学校教育を後押しするのがこのガイドブックです。
フェーズフリーで次に重視される原則は「日常性」です。このガイドブックは普段の暮らしの中で役立つと同時に子どもたちの興味・感心を喚起する実践例をまとめたものです。また、無償でダウンロードして誰でも自由に利用できる点も日常性を高めています。
鳴門市教育委員会 いつもともしもがつながる 学校のフェーズフリー(PDF) https://www.city.naruto.tokushima.jp/_files/00361309/phasefree_for_school.pdf
日頃からより良い教育の実現に役立てられること、また、そのような教育を目指す多くの教員が気軽に入手できることから、このガイドブックは日常性に加えて「普及性」も非常に高いといえるでしょう。
このガイドブックでは、フェーズフリーを学校教育に導入することの意義や目的が図表を用いてわかりやすく解説されています。教科ごとの具体的な実践事例やアイデア等も豊富に掲載されているため、教員は特別な研修を受けることなく自身の授業等にフェーズフリーのコンセプトを活かすことができます。これらは「直感性」の高さとして評価できるポイントです。
「触発性」の高さとして評価されるのは、普段の授業や学校生活の中で子どもたちの身の周りで起こり得る災害を意識させられる点です。また、このガイドブックをきっかけに、教員同士も日常の教育の質を高めるための意見交換をしたり、いざという時の対応について話し合ったりといったコミュニケーションが生まれています。
フェーズフリーな暮らしを実現する学校教育とは
今回ご紹介した「PHASE FREE CONCEPT & GUIDEBOOK for School」は、フェーズフリーを学校教育に導入することの意義や目的を分かりやすく解説し、具体的な実践事例やアイデア等をまとめたガイドブックです。
徳島県鳴門市は、南海トラフ地震による津波被害が想定されている自治体です。同市の教育委員会から始まった“学校のフェーズフリー”は、文部科学省から委託を受けて作成したこのガイドブックを介して、全国に広まりつつあります。
フェーズフリーな学校教育がスタンダードになれば、子どもたちの学習意欲が向上すると同時に、非常時に適切な行動が選べるようになるはずです。さらに、教員や生徒を通じて地域や家庭にフェーズフリーの考えかたが広まることによって、地域全体の脆弱性が減少し災害による被害が軽減されるのではないでしょうか。
学校は、子どもたちが安心して教育を受け、より安全な社会の実現のために必要な知識やスキルを身につける場所です。PHASE FREE CONCEPT & GUIDEBOOK for Schoolの活用が全国の学校現場に広がることを願っています。