フェーズフリーアワード2023 最終審査委員会
2023年8月1日、第3回目となるフェーズフリーアワードの最終審査委員会がおこなわれました。
アイデア部門、事業部門のそれぞれにGOLD、SILVER、BRONZEを選ぶ議論は予定の時間を過ぎて4時間半に及びましたが、終始和やかに進行しました。
丁寧な議論を経てあらためて浮き彫りになったのは、フェーズフリーアワードの課題とこれまでに積み重ねてきた実績です。フェーズフリーをよりわかりやすくより正確に伝えるために何を選ぶか、そこに挑んだ会議の模様をお伝えします。

ほどよい緊張感が漂う審査会場

例年通り千葉工業大学のスカイツリータウン®キャンパスで開催された最終審査委員会には、審査委員9名全員が出席。うち4名が初参加で、国内・海外の各地から参集しての会議となりました。
最終審査前にアイデア部門、事業部門それぞれ33ずつの入選対象が選出され、各委員が10票を投票しています。その集計結果をもとに、投票理由の説明と「評価を引き上げるべきか」の議論が進んでいきます。
ほどよい緊張感が漂いつつもリラックスした雰囲気のうちに会議は進み、アイデア部門では上位14対象で、事業部門では得票が少なかった二つの入選対象を加え12対象で最終投票がおこなわれました。

闊達な議論が交わされたアイデア部門

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緊張感を和らげる前向きな思考と意見

アイデア部門の議論のポイントになったのは、入選対象のアイデアと実現可能性を公平に評価する方法です。
可能性をどう評価するかはフェーズフリーアワード2022でも議論された問題です。これは汎用性や有効性の評価にも大きく影響するため、避けては通れない検討課題といえます。

今回の審査では、応募資料のデザインで実際の製品を作ることが可能か、そしてその製品の機能は予測どおりになるのかという観点で審査がおこなわれました。
例えば「ちりばめられる灯火」はデザインに問題はないものの、提出資料だけでは実際の具体的な機能を予見することが難しく、最終選考で受賞を逃しました。また「ライト一体型ドアノブ」は、応募資料の形状では製品化できないという判断で受賞には至りませんでした。
どちらもアイデア自体は高く評価され、特にドアノブについては「別の形なら設計図が描ける」「ドアを開閉するモーメントで蓄電できるのでは」など専門家たちがアイデアを出し議論が盛り上がりました。
創発性の発揮につながる議論と思われただけに、今後こうしたアイデアをどう取り扱うか検討する必要があるかもしれません。

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専門知識を生かした活気のある議論

また、応募者の属性によるバイアスを排除した上でアイデアを公平に評価する方法についても試行錯誤の段階といえます。
例えば応募者が大企業の場合、グループ企業のネットワークや充実したインフラを生かした実現可能性が高いアイデアが出せますし、それが伝わりやすい資料を作ることも比較的容易でしょう。しかしフェーズフリーなアイデアには、私たち一人ひとりの小さな気づきから生まれるものも無数にあるはずです。
そういった応募対象も含めて公平に評価できるよう、「応募者名を伏せた状態での選考」が一つの対応策として機能していました。ただ、応募資料を見れば応募者のバックグラウンドはある程度推察できます。すぐに事業化できそうな提案から一生活者のひらめきまで、アイデアの規模や内容にばらつきがあるところにどう順位をつけるか、これは一考の余地がありそうです。

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世界の現在と未来の視点から

最終的なアイデア部門の順位付けはバランスを見て決めるということで6つの応募対象を残し、休憩をはさんで議論は事業部門へと移りました。

フェーズフリーな価値の理解度が試された事業部門

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時には全員の笑顔がはじける瞬間も

事業部門の審査のポイントは「どの製品を選べばフェーズフリーをわかりやすく正確に伝えられるか」でした。

例えば「洗口液 モンダミン」は、ふだんの暮らしを豊かにするものがもしものときにも役立つ例としてわかりやすいのではという意見があり、最終的な選考の対象となりました。フェーズフリーを正確に伝えられる点が高く評価されたのは東洋シヤッター株式会社のドアやシャッターです。デザインや素材からフェーズフリーへの深い理解が見てとれるとの称賛の声が複数の委員からありました。

逆に「資料からは本来の価値が読み取れなかった」との評価を受けた入選対象もあります。フェーズフリーな価値をいかにわかりやすく正確に伝えるかという視点は、審査委員だけでなく応募者が作成する資料にも必要不可欠なものといえるでしょう。

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コミュニティの持続可能な豊かさを求めて

事業部門についても6つの入選対象を残し、再度休憩をはさんで受賞対象を決定する議論が始まりました。

メッセージ性が問われた受賞対象の選定

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真剣だからこそ一つひとつに丁寧に向き合う

受賞対象選定の際には、フェーズフリーを通じて社会に伝えたいメッセージは何か、が問われることになりました。

事業部門のGOLDに選定された「子ども食堂防災拠点化事業」は、日常時だけでなく非常時にも欠かせないインフラとなっていること、社会課題の解決につながることがフェーズフリーの方向性と一致するとの評価を受け受賞が決定しました。応募者が認定NPO法人であることもポイントで、市民活動を後押ししたいというメッセージも込められています。
最後までGOLDを争いSILVERとなった「明治ほほえみ らくらくミルク」には、いわゆる3歳児神話や母乳育児を奨励する風潮が根強い日本で、小さな子どもを育てる母親やその周囲の人に気づきを与えたいとする意見がありました。BRONZEには東洋シヤッター株式会社の製品をということで「TSウォータータイト」が選出されています。

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どう伝えるべきか常に考え続けた

アイデア部門では応募者情報が開示された上で「オンデマンド交通サービス」がGOLD、「オフグリッドモバイルベース」がBRONZEに決定しました。これらは大企業だからこそ提案可能なアイデアであり、豊富なリソースを生かしてぜひ実現してほしいとの期待を受けました。
SILVERには「里庭の庵 ~仲間でちょこっと別荘~」が決定しましたが、このときの議論が大変興味深いものでした。このアイデアは一見富裕層が豪邸をシェアする提案のように見えますが、住宅のシェアによって人々の間に新たな関係性が生まれる点が高い評価を受けました。しかし応募資料にはその点への詳しい言及がなかったため、フェーズフリーなアイデアとしての価値が十分理解されているか危ぶむ声もありました。そのときフェーズフリー建築協会の理事から、応募者が一貫して人と建物との関わりをフェーズフリーにする提案を続けており、フェーズフリー住宅デザインコンペで3回の受賞経験があると説明され、審査委員たちも納得したのです。

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無限の可能性に思いを馳せる

もっとわかりやすく伝えるために

佐藤委員長からの「フェーズフリーとは何かをわかりやすく伝えられるものを選びたい。9人の審査委員全員にそれができると信じています」との挨拶で始まった会議は、期待された役目を終えました。
いくつかの課題はあるにせよ、3回にわたるフェーズフリーアワードの経験を経て審査のかたちはほぼ整った印象です。フェーズフリーへの注目度や関心の高まりに対して、今後何を選びどんなメッセージを伝えていくのか、次回以降の審査委員会にも注目が必要です。

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長時間の最終審査委員会をチームワークによって乗り越え、最後はそろって笑顔の記念撮影

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