「個」や「地域」ならではの『フェーズフリー』があってもいい

フェーズフリーアワード2023 審査委員
株式会社三菱総合研究所 主席研究員 未来共創本部長

須﨑 彩斗さん

フェーズフリーアワードの第1回目から審査委員を務める須﨑彩斗さん(以下:須﨑さん)と、フェーズフリー協会代表理事の佐藤唯行(以下:佐藤)による3回目となる対談をおこないました。3年目を迎えたフェーズフリーアワードについて、そして『フェーズフリー』に関わってきて今感じることなどについて伺いました。
(2023.2 実施)

写真・文:西原 真志

須﨑彩斗さんとの対談-1

フェーズフリーアワード2023で3回目の審査委員を務める三菱総合研究所主席研究員の須﨑彩斗さん

この3年で、より身近で一般化してきた『フェーズフリー』

―― 佐藤
2021年の第1回フェーズフリーアワードから3年にわたって『フェーズフリー』に関わってくださってありがとうございます。ご自身やまわりの変化など、何か感じるところはありますか?

―― 須﨑さん
そうですね。最初に抱いた『フェーズフリー』のイメージって、すごくいい言葉だなということだったんです。しばらく僕の中では特別な言葉という印象があったのですが、2年目、3年目になると、他の人が同じようなことを言ったときに「あ、それって『フェーズフリー』っていう言い方があるんですよ」と自分から伝えるようになった。自分の中で『フェーズフリー』がより身近で一般化してきたと感じています。

―― 佐藤
このほんの1、2年くらいですかね、テレビや新聞でも『フェーズフリー』が取り上げられる機会も相当に増えました。

―― 須﨑さん
最初は言葉や概念を広げていく活動を積極的に重ねる必要がありましたが、今は次のアクションを考えていくフェーズなのかなと思います。

―― 佐藤
そうですね。自発的に『フェーズフリー』という言葉と概念が広がって、行政や産業など、それぞれの領域で広がって浸透しています。

―― 須﨑さん
コロナ禍を経てやはりここ2、3年で、政治や経済界をはじめ、いろいろな分野で『フェーズフリー』に対する受け入れが進んできていますよね。

―― 佐藤
政府や自治体などの取り組みとして、制度や仕組みそのもののフェーズフリー化も各地でどんどん増えています。これもひとつの、イノベーションなのではないかと思います。

―― 須﨑さん
それがほんとに『フェーズフリー』という言葉の力だなと思います。コンセプトがしっかり理解されると、言葉は独り立ちして伝播していく。それを目の当たりにできた。

―― 佐藤
そうなんですよ。でもその一方で『フェーズフリー』は、よく分からない言葉でもあるのも事実なんです。フェーズがフリーって何だ? っていう(笑)。

―― 須﨑さん
そうか(笑)。

―― 佐藤
でもよく分からないんだけども、日常時と非常時のフェーズをフリーにするというのが一度理解できると、『フェーズフリー』という言葉として定着する。確かに絶妙な言葉だったんだなっていうのは、改めて思います。

自分のあらゆる思考過程の中に『フェーズフリー』が浸透してきた

須﨑彩斗さんとの対談-2

須﨑さんはモニターにさまざまな情報を提示しながらプレゼンテーションしてくださいました

―― 佐藤
『フェーズフリー』が広まっている状況の中で、須﨑さんが関わっているプロジェクトや仕事に何か変化はありましたか?

―― 須﨑さん
個人的には自然と『フェーズフリー』な考え方をしているなって自覚するようになりました。思考過程の中に確実に、『フェーズフリー』が浸透してきている。
例えばビジネスを考えるときも、特殊な領域のプロジェクトを考えているときも、両方同じく『フェーズフリー』の発想が入ってきます。ビジネスにも国の政策にも当てはまる汎用的な概念ですし、それがさらに個人の思考過程に落ちてきたら、もっと有益だし広がると感じます。

―― 佐藤
本当にそうだと思います。

―― 須﨑さん
そもそも防災を考えたとき、非常時だけを見ていては難しいと思うんです。それは個人のレベルでも同じことが言えて、ある人がすごく困っているんだけど、隣の人はまったく困ってないということが起きてしまう。そういう個人レベルでの『フェーズフリー』みたいなものも、もっと考える余地が結構あるんじゃないかって思うんです。

―― 佐藤
そのとおりです。対象は個人から集団、組織などさまざまで、それぞれの領域やレベルに合わせた『フェーズフリー』というものがある。そもそも社会全体が災害時ではなくても、ある一個人が不安定な状況にいるのが非常時だと考えると、その一個人の不安定な状況にちゃんと提案できて応えられるものであるべきだと。

―― 須﨑さん
そうですね。

―― 佐藤
今、須﨑さんの横にポータブルバッテリーが置いてありますよね。三菱総研の皆さんが普段から使っているものだと思いますが、それは株式会社オカムラさんの『OCポータブルバッテリー』という製品で、実はフェーズフリー認証マークが付いています。
オフィスはどんどんフリーアドレス化していろんなシチュエーションで仕事ができるようになり家具も進化している。でも自由なオフィス空間といっても、みんなパソコン使うときに電源どこ? って、結局は部屋の隅にあるコンセントにつながなきゃならない。そこを解決したんですね。普段からどこでも電源になるし、いざというときにも同じく使い慣れたポータブル電源になる。

―― 須﨑さん
平常時から非常時のことを意識させるというか、無意識でもいいから植え付けとくっていう機能があるかどうかというのが、結構大事なところなんですよね。その意味でもこの製品は意義がありますね。

―― 佐藤
そうですね。須﨑さんがふだん仕事や生活をしている中で、これって『フェーズフリー』だと感じたものなどはありますか?

―― 須﨑さん
佐藤さんにも参加いただいていますが、我々の活動のひとつとして「ICFビジネスアクセラレーションプログラム」という、社会課題を解決するビジネスやアイデアを広く応募してもらう活動があります。

―― 佐藤
どのくらいの応募があるのですか?

―― 須﨑さん
毎年150件ほどです。改めて提案内容を見たときに、これって『フェーズフリー』だなと思うものがいくつかあるんです。最近特にそう思ったのが、UPWARD株式会社さんの位置技術情報とCRMを活用したクラウドサービス「UPWARD」でした。

―― 佐藤
どのあたりが『フェーズフリー』と?

―― 須﨑さん
『現場のラストワンマイルを革新する』をミッションに掲げる会社で、「UPWARD(※1)」は独自の位置技術情報とクラウドサービスを活用することで、日々の営業活動を支えるほか、災害時の罹災証明発行を短縮化するなどレジリエンスの強化、自治体の災害業務のDX支援、ならびに持続可能な社会の実現に貢献するものです。
つまり元々はビジネスをサポートするツールなのですが、非常時や社会課題の解決にも活用することができるんです。

―― 佐藤
それはすごい。

―― 須﨑さん
近年の地震や豪雨などの際にもすでに活用されています。有事の際にもクイックな手続き等が可能になるし、どの家屋にどういう人が住んでいるといった情報もすぐに分かる。そもそも今の家屋の状況が地震の前にどうだったかとかいう情報などをふだんからクラウドデータにアップロードしておけば、何かあった際にすぐ活用できますよね。

―― 佐藤
そうですね。

―― 須﨑さん
日常時からそういうデータを蓄積していると、行政としても便利なことっていっぱいあるんじゃないかと思うんです。例えば民生委員の方など、日々いろんな家庭を訪問されていろんな情報を持っているけれど、そういった情報を位置情報と一緒に管理・共有できるようにするとふだんの業務でも役に立つし、何かあった際にここにはお年寄りがたくさんいるから早く避難をさせた方がいいとか、パーソナル防災が可能になる。そんな風に『フェーズフリー』の概念を加えていくと、もっともっと活用の幅が広がっていくと思うんですよね。僕が『フェーズフリー』を知らなかったら、そういう発想はできなかっただろうなと思いますよ。

―― 佐藤
おっしゃるとおりです。「UPWARD」は営業の結果を向上させつつ、その普段の機能が非常時にも役に立つというところが確かに『フェーズフリー』です。もっといろんな活用法が考えられそうですね。

※1:https://www.upward.jp/

フェーズフリーアワードで、地域固有の『フェーズフリー』と出逢いたい

須﨑彩斗さんとの対談-3

対談は三菱総合研究所の会議室でおこなわれました

―― 佐藤
フェーズフリーアワードに今までと違う視点で期待すること、あるいは改善できそうといったアドバイスはありますか?

―― 須﨑さん
期待しているところとしては、個人的な思いでもあるのですが、地域性ということに着目しています。

―― 佐藤
ああ、なるほど。具体的な商品やサービスなどでイメージはあるのですか?

―― 須﨑さん
街なみのようなものをイメージしています。日本各地それぞれに特徴があって、文化があって、暮らしに根付いている街なみがある。でもその一方で、どこにでもある同じ駅前の景色みたいなものもあります。

―― 佐藤
そうですね。

―― 須﨑さん
京都を例に挙げると、観光地として滞在するのと暮らすのとでは街なみがまったく違って見えます。例えば京都で災害が起こるのと東京で災害が起こるのと、防災のつくり方や考え方が違ってしかるべきだと思うのですが、今の防災の基準、計画や行動というものに地域性が考えられてないと感じるんです。

―― 佐藤
確かにそうかもしれません。

―― 須﨑さん
フェーズフリーアワードに限りませんが、地域固有の『フェーズフリー』の提案っていうのが出てくるとすごくいい、面白いなあって思うんです。

―― 佐藤
地域特有というのは、防災ではなかなか難しいんですよね。なぜなら防災はコストだから。コストだから、必要最低限だったり画一性が求められてしまう。

―― 須﨑さん
なるほど。

―― 佐藤
だから、地域ならではみたいなものをそぎ落とす方向にいってしまう。その意味でも、今須﨑さんが求められた、ある地域性の中で非常時の生活や命を救えるようなものが生まれてくると面白いという、それはおっしゃるとおりです。

―― 須﨑さん
沖縄だからできるとか、京都だからできる『フェーズフリー』などがあってもいい。それがその地域が持つ豊かさをさらに認識させてくれたり、より広い意味の地域創生みたいなことにもつながっていくと思います。

―― 佐藤
『フェーズフリー』がより身近に、より広がっていきますね。

―― 須﨑さん
そうですよね。そんな期待をしています。

―― 佐藤
今回もありがとうございました。フェーズフリーアワードも引き続きよろしくお願いします。

須﨑彩斗さんとの対談-4

対談を終えて笑顔でタッチする須﨑さん(左)と佐藤

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