『フェーズフリー』には、さらなるスピードとパワーが重要

フェーズフリーアワード2023 実行委員長
株式会社フォース・マーケティングアンドマネージメント

岩田 彰一郎さん

2022年に開催された第2回フェーズフリーアワードから実行委員長を務める岩田彰一郞さん(以下:岩田さん)。アスクル株式会社を創業し日本を代表する企業へと育て、現在は株式会社フォース・マーケティングアンドマネージメントを設立し、起業家などの後進を育てるべく日々活動されています。マーケティングや経営のエキスパートである岩田さんと、フェーズフリー協会代表理事の佐藤唯行(以下:佐藤)による対談をおこないました。
(2023.3 実施)

写真・文:西原 真志

岩田さんとの対談-1

フェーズフリーアワード実行委員長を務める、株式会社フォース・マーケティングアンドマネージメント代表の岩田彰一郞さん

企業の力とスピードが、これからの『フェーズフリー』のパワーになる

―― 佐藤
前回よりフェーズフリーアワードの実行委員長を務めていただいてありがとうございます。今回は特に、企画段階からたくさんのアドバイスをいただきました。フェーズフリーアワードに感じることや思うことなどがありましたら教えていただけますか。

―― 岩田さん
『フェーズフリー』は今、時間との戦いが始まっていると思っています。日本は絶えず災害リスクにさらされています。その中で『フェーズフリー』の概念を少しでも早くより多くの人に知っていただき、参加いただいて普及していくというのが我々のミッション。時間との戦いでもあるし、今すぐに多くの共感を得て広めていくことが極めて重要だと思うのです。このフェーズフリーアワードをきっかけとして、よりパワフルに社会に認知してもらうことがすごく大事だと考えています。

―― 佐藤
知ってもらう、広げていくというところは当然として持っていた考えですが、私の中ではスピードという時間軸があいまいになっていました。1923年に起きた関東大震災から100年、その100年を経ても変わらずに災害が繰り返し起きている現実に対するひとつの解決策である『フェーズフリー』を早く浸透させない限り、この被害を減らすことはできないだろうと思っています。

―― 岩田さん
佐藤さんたちがこれまで積み重ねてきたような草の根運動のような動きも当然大事ですけど、これからはパワーやスピードをどれだけ上げていくかがさらに重要になりますよね。要は時間軸とエネルギー。その意味でも、これから大企業を巻き込むことは有効な手段だと思います。社会のよりパワフルな存在を取り込んで、『フェーズフリー』そのものが力をつけていくことが大事だと思うんです。

―― 佐藤
時間との戦いっていうのは、現時点では2つのテーマがあると思って岩田さんの話を聞きました。第一に、いつ起こるか分からない災害に対する「時間」との勝負。もうひとつが、『フェーズフリー』の「伝わり方」です。 最近急速に広がっていく中で、『フェーズフリー』が正しく伝わっていないことが多々あります。言葉ばかりが勝手に一人歩きして、“『フェーズフリー』らしきもの ” が『フェーズフリー』と言って世の中に広がってしまっている。

―― 岩田さん
『フェーズフリー』もどきがいっぱい出てきたというのは、それはそれで活動のある種の成果でもあります。でも『フェーズフリー』という正しい概念を早く多くの人に知らせるなら、素直にすごいと思った『フェーズフリー』をどんどん認めて、仲間に引き入れていくことを今やらなきゃいけないのかな。そういうことが、社会の大きなムーブメントにしていくステップだと思う。

―― 佐藤
昨年の岩田さんとの対談では、「『フェーズフリー』には右脳のマーケティングが必要」っておっしゃっていただきました。合わせて考えると、直感的にスピーディに、もっと門戸を広げて企業なども巻き込んでいく必要があるということですね。

岩田さんとの対談-2

岩田さんは「『フェーズフリー』はもっと企業の力を取り入れた方が良い」とアドバイスしてくださいました

世の中に存在する『フェーズフリー』を、もっと積極的に評価し発信していくべき

―― 佐藤
スピード感と同時に、『フェーズフリー』を正しく理解してもらわなくてはならない。そのためには、企業のパワーが不可欠になっている。そこで岩田さんにお聞きしたいのですが、最近の商品やサービスの中で、世の中に影響力がある、または何かヒントになるようなものを教えていただけますか。

―― 岩田さん
そうですね、例えば日清食品さんの『完全栄養メシ』は良い例だと思います。100万食のスタートから600万食まで売れる商品になった。日常の若い人たちが『完全栄養メシ』を食べる方がバランス取れるし簡単だよねと考えるからだと思いますが、実はそれだけでなくて、災害時にちゃんとした食事が摂れるというメリットにもなるわけです。別にそれを謳ってはいませんが、それらが合わさって販売数の増加につながっていく。食品で600万食とは決して大きな数字じゃないですけど、そういうスケール的な基準、量の基準というのも、『フェーズフリー』においては実は重要な指標かなと思っています。

―― 佐藤
なるほど。

―― 岩田さん
空腹を満たすと同時に、完全栄養食だから栄養のバランスも取れる。だから受け手は価値を感じます。満腹になるといういわゆるシーズ、つまり種(タネ)だけの話に終始してしまうのではなく、この種から発芽させていろんな方向に価値を広げていく。いろんな企業がこの種のようなものをつくって、みんなでいろんな発想をしながら育てていければいい。日清さんも『フェーズフリー』に参加してもらえたら面白そう。

―― 佐藤
本当ですね。コラボレーションというか、一緒になって考えていくということですね。これからいろんな企業さんを巻き込んでいきたいというときに、どのようなアクションが望ましいですか?

―― 岩田さん
例えばあるメーカーさんの製品に対して、フェーズフリー協会がそれを『フェーズフリー』と自発的に認証するとします。その際に従来の審査料ではなく、一緒に何かを行動していく話につなぐだとか、逆にスポンサードしてくださいとサポートを相談してもいいと思う。 やり方やコラボの仕方はいろいろあって、お互いにとって理想的なスケール化やマネタイズを実現していけると思います。

―― 佐藤
つまり我々の今のミッションとして、自発的かつ積極的に『フェーズフリー』を認証していくと?

―― 岩田さん
はい。「これは『フェーズフリー』ですね」と積極的に認めて発信していくことが大切ですし、企業の社会貢献に対する意識も高まっていますので、CSR部門や広報の方々とコミュニケーションする機会を持つこともすごく有効です。企業はやっぱり、早くてパワーがある。その企業を巻き込んで力をうまく使っていくというのは、これからの『フェーズフリー』を推進するパワーとしてはかなり大きいですよ。

岩田さんとの対談-3

経営やマーケティングに関する豊富な知見を元にしたお話を伺いました

従来の二次元的な進化ではなく、三次元 = 立体的にステップを上げていくこと

―― 佐藤
『フェーズフリー』の黎明期である今までは、我々はコツコツやっていればいい時代でした。でも今はそうじゃない。『フェーズフリー』が急速に広がる世の中が求めるスピードについて行けていない。岩田さんはこれまでいろんな経験をされているから、ここが一番危ないポイントだっていうのはすぐに分かるのですか?

―― 岩田さん
ベンチャーだったら、そこで抜かれちゃう。

―― 佐藤
ああ、なるほど。

―― 岩田さん
ボーリングで例えるなら、やはりトップピンをしっかり狙って落とさなきゃいけない。各業界のトップ企業だったり、人材的なトップだったり。そういったところときちっとアライアンスを結んで味方にして、普及につなげていく。この流れができてくると、その周囲の企業や団体、人など多彩ないろんな仲間が増えていく。

―― 佐藤
トップピンですか。業界をリードしているような企業を巻き込む。

―― 岩田さん
そうです。

―― 佐藤
そういったときに、例えば日本には他にどんな業種や業界があるんだろうと考えます。衣食住や車、あとはゲームなどもある。

―― 岩田さん
ゲーム業界も面白いですね。ネットワーク面でもハード面でも、いろんな可能性がある。

―― 佐藤
例えば「ゲーム」と「運動」をうまく絡めているものって『フェーズフリー』なんじゃないか? と考えると、意外と岩田さんが企業を巻き込めっていう視点では、世の中に無限に可能性があるという気がします。 今そこまでは気づいたんですけど、実際はその先のアプローチに、まだまだハードルがあるのが現実で。企業にコンタクトを取っても、スルーされることがとにかく多くて……。

―― 岩田さん
だいたい企業は外から来ると、ちょっと怪しいなと思って斜に構えてるから(笑)。入口を間違えるとなかなか情報が上がらないんですよ。だから、しかるべき入口から入ることが大切。佐藤さんの特性とキャラクターから言ったら、佐藤さん自身がマスコミ露出を増やしてったらいいと思うけど?

―― 佐藤
(苦笑)

―― 岩田さん
社会起業家的な人たちもいろんな形で知名度を上げてるじゃないですか。別にコメンテーターになれというのではなくて、まずは露出を増やすこと。自分もアスクルを立ち上げてからは、知名度を上げていくことに注力したんです。それで、なんか伸びている面白い会社があるらしいって思ってもらえて、随分と知名度も上がりました。

―― 佐藤
なるほど。

―― 岩田さん
今はとにかく、活動を世の中に示すことが重要で、知らしめるのが佐藤さんの役割でもある。『フェーズフリー』全体の運動量を増やしていかなきゃいけない。

―― 佐藤
確かにそうかもしれません。岩田さんから昨年に「右脳のマーケティング」という『フェーズフリー』の活動を大きくシフトする視点をもらいました。そして、今年も時間との戦いというお話をもらいました。『フェーズフリー』そのものの発展に、岩田さんが大きなアドバイスをしてくださっていてすごくありがたいです。

―― 岩田さん
いえいえ。これまでの二次元的な進化だけでなく、これからは立体、三次元の変化に対してステップを上げていくことですね。三次元の成長っていうイメージをみんなが持って、大変だけど大企業を巻き込んでスケール化していく。その手法を企業ではよくKPI(重要業績評価指標)といいますが、まずはどこか3社を巻き込んで、そこから20社ぐらいの企業に賛同してもらい、2025年には100社の企業の賛同を得られるところにもっていく。そういった目標数値を具体的に描いておくといいと思います。まさに企業戦略そのもので、社会的意義も含めたスピードある成長ができると思います。

―― 佐藤
年齢を重ねるとこうやって自分にビジョンを見せてくれる人ってなかなかいないので、本当に岩田さんは自分にとっても『フェーズフリー』にとっても、すごく重要な存在です。今後もよろしくお願いいたします。

―― 岩田さん
こちらこそ、よろしくお願いします。

岩田さんとの対談-4

約2時間の対談を終えてタッチを交わす岩田さん(右)と佐藤

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