姜明子さん、吉川いづみさん、河合奈々子さん

株式会社オレンジページ 常務取締役

姜 明子さん

フェーズフリーアワードの審査委員を務める株式会社オレンジページ常務取締役の姜明子さん(以下:姜さん)をはじめ、雑誌『オレンジページ』の制作を手がける吉川いづみさん(以下:吉川さん)、河合奈々子さん(以下:河合さん)の3名と、フェーズフリー協会代表理事の佐藤唯行(以下:佐藤)による『フェーズフリー』に関する対談が行われました。これまで防災に関する特集をはじめ、暮らしに役立つさまざまな情報を発信してきた『オレンジページ』の皆さまが考える『フェーズフリー』とは?

※対談はマスクを装着し行っておりますが、撮影用に一時外している場合がございます。

写真・文:西原 真志

姜さんとの対談-1

昨年に続き今回の第2回フェーズフリーアワードでも審査委員を務める姜明子さん

災害対応は、いつもの暮らしの延長線上にある

―― 佐藤
昨年の第1回フェーズフリーアワードでは、姜さんにご尽力いただき大変感謝しています。ありがとうございました。いっぱいご苦労をお掛けしてしまいましたが、生活や暮らしに根ざした『フェーズフリー』というものを見出そうとしていただき、すごくありがたかったです。

―― 姜さん
いえいえ、とんでもないです。こちらこそありがとうございました。

―― 佐藤
審査委員としての審査だけでなく、本アワードによって“気づきの連鎖”をもたらしたいというメッセージも発信いただいて、たくさんのディスカッションも行なうことができました。第1回のフェーズフリーアワードを終えてみて、姜さんの所感をお聞かせいただけますか?

―― 姜さん
皆さまには大変お世話になり、心から御礼を申し上げます。“気づきの連鎖”と申し上げましたことを協会の皆さんにもご理解いただいて、一緒になって動くことができたと思っています。 第一回フェーズフリーアワードの趣旨は、正しい理解と着実な拡大が主な目的でしたが、授賞式当日の授賞者の方々のプレゼンテーションを拝見して、正直、驚いたことを思い出しました。それは、熱い想いや開発秘話もありますが、何よりも『フェーズフリー』に対しての思考の深さを、早い段階でお持ちの方たちがこんなにいらっしゃるということが衝撃的でした。「黎明期」であると思い込んでいた自分の認識不足を反省し、またさらなる拡がりを確信した2021年のフェーズフリーアワードとなりました。

―― 佐藤
ありがとうございます。

―― 姜さん
私どもが刊行している「オレンジページ」は、いつもの暮らしに密着した雑誌です。災害対応とは、いつもの生活、いつもの暮らしの延長線上にあると、改めて感じました。“いつもの充実”が“もしもの対応”につながると。

―― 佐藤
そうですね。姜さんはずっと、「いつも“は”もしも」って言ってこられた。

―― 姜さん
そうです。それは、私が参加している、食べる支援プロジェクト『たべぷろ』のビジョンでもあるんです。災害時の食と栄養の問題を解決するために集まった、多組織・多職種プラットフォームが『たべぷろ』なのですが、このビジョンでもある、いつもの生活の延長線上にある災害について、社内で積極的に話をしてきました。

―― 佐藤
『オレンジページ』さんはこれまで、そういった食や暮らしに密着したいろんな情報に加えて、防災にも力を入れてこられましたよね。

―― 姜さん
はい。『オレンジページ』は1985年の創刊以来、老若男女本当に幅広い読者の方に支えられていますが、その多様な読者に向けて、身近で役に立つ情報を発信し続けています。近年では防災特集にも力を入れていまして、今回は誌面制作に携わり、最近では『フェーズフリー』に大いに関心を持ってそれぞれの業務を遂行してくれている、吉川と河合の二人にも登場してもらうことにしました。

誌面を通じて、“いつも”と“もしも”が実はつながっているという気づきを提供したい

姜さんとの対談-2

エディトリアルコンテンツ部 マネジャー 『オレンジページ』デスクの吉川いづみさん

―― 佐藤
吉川さん、よろしくお願いいたします。まずは『フェーズフリー』を知った際の印象をお聞きしたいのですが。

―― 吉川さん
よろしくお願いいたします。まずは、姜も申しておりますが『フェーズフリー』に関われたことをまずオレンジページ社として本当にありがたいなと思っております。
姜がフェーズフリーアワードの審査委員になってから、私は『フェーズフリー』を知ったのですが、いつもともしもは一緒であると非常に言い得ていて、個人的にはすぐにピンと来ました。

―― 佐藤
吉川さんはさまざまな防災の企画を手がけてきたとのことですが、ある意味その防災を発信する方が『フェーズフリー』というものに出会い、何か影響みたいなものはあったのでしょうか?

―― 吉川さん
『フェーズフリー』という言葉を知ったことは、私個人の気づきにも直結しました。防災というと難しく感じられたものが、『フェーズフリー』という考え方によってより身近で簡単なものとして、インスピレーションを広げやすくなったと言いますか。
また“気づき”ということで言いますと、私どもの『オレンジページ』で発信している情報が、実は『フェーズフリー』と近しいものがあることに、自分たち自身も気がついたんです。自分たちの普段の暮らしを充実させて楽しむ情報発信をしていますが、実はそれが同時に、いざというときへの備えになったり、命を救うことにもつながる話もあるんだなと。新しい防災の形を発信していけそうだ、という自分たちのモチベーションにもつながったところがあります。

―― 佐藤
防災企画の反響というものは大きいのでしょうか?

―― 吉川さん
『オレンジページ』は、「ほどよい手間でよりよい毎日を。暮らしがはずむ、オレンジページ」というコンセプトで情報を発信しているのですが、防災の日に合わせてなど年に数回、暮らしに取り入れやすい防災の特集を組んでいます。
防災という大きなテーマの中で、最低限これを持っていれば安心といった「防災ポーチのすすめ」という企画や「ダンボール一箱でトライするローリングストック」、さらには「おすすめ備蓄品セレクション」や「100円均一ショップで揃うお役立ちグッズの紹介」といった、誰にでも行ないやすい形でいろんな情報をお届けしていて、この防災企画への反響はとても大きなものとなっています。

―― 佐藤
例えば防災ポーチの提案ですが、これはまだ皆さんと『フェーズフリー』の話をしていないときの企画だと思いますが、その中身というのはあくまでも非常時を想定していたものだったのですか?

―― 吉川さん
企画段階で、非常時にしか使えないものを持ち歩くのはイヤだよねという話になりました。非常時に絶対必要で、なおかつそれが、日常でも使う頻度が高いものをなるべくセレクトすることを心がけました。

―― 佐藤
なるほど。普段の暮らしを豊かにするとか楽しくするということが実は、非常時にも役に立つというような、そんなコンセプトづくりもあったのですか?

―― 吉川さん
まだ『フェーズフリー』を知らないときですので、そのときはあくまでも防災という認識でした。でもこの例と同じように、今振り返って見てみると「これも『フェーズフリー』だね!」という企画はたくさんありました。
スタンスは防災でしたが、無理のない形で日常でも使えるものを入れといた方がいいよねという、『フェーズフリー』の発想とはちょっと反対からきたものではあるのですが、すごく共感するものがありますね。

―― 佐藤
なるほど、防災ポーチやダンボール一つのローリングストック、また100円均一で揃うグッズや備蓄品の紹介など、私たちの日常の生活に、非常時のものもどんどん近づけている。

―― 吉川さん
そうですね。姜がよく話をしている、いつもをきちんとするということですね。そこに、もしもに備えるにはということが、すごく結びついてきたかなという感じがしています。

―― 佐藤
いつも置いておいて、非常時にだけ取り出して使うことは、なかなか私たちには難しいからですね。

―― 吉川さん
その通りです。最近では100円グッズを使った“プチプラ防災”という、防災グッズの企画に取り組みました。防災グッズを揃えたい、だけど高価だったり保管しにくかったりして、なかなか揃えられないという悩みに応えることを目的としました。このときに、フェーズフリー協会さんと一緒に取り組みをさせていただき、これまで以上に幅の広い情報やアイデアを発信できるようになったと実感しました。
防災という入口での企画だけでなく、暮らしを楽しくしようとか快適にしようと『オレンジページ』の記事を見てくださった方が、“実はもしもといつもがつながっている”という気づきにつながるといいなと思っています。

“気づきの連鎖”を生み出して行きたい

姜さんとの対談-3

アカウントプランニング部 マネジャー エグゼクティブプランナーの河合奈々子さん

―― 佐藤
河合さんが防災に興味を持ったきっかけはどのようなものでしたか?

―― 河合さん
今は営業の部署にいるのですが、東日本大震災が発生した際には編集部に在籍していました。その当日は鎌倉へ取材に行っており、江ノ電に乗っていたときに大きく揺れ始めてまわりのビルもすごくしなっているのが見えて…。結局カフェで一晩明かしたのですが、そのときの辛かった体験を経て、コンタクトの替えかメガネ、そして歯ブラシセットを必ず持ち歩くようになりました。それが、私が防災意識を持ったきっかけであり、もちろん意識こそしていませんでしたが私なりの『フェーズフリー』の始まりだったと思います。

―― 佐藤
『フェーズフリー』という言葉を聞いたときの第一印象とはどのようなものでしたか?

―― 河合さん
聞いてすぐに理解できたのもありますし、何よりも常に災害と生きてきた私たちらしさと言いますか、いろんな経験の延長線上にある日本ならではの考え方だと感じました。

―― 佐藤
最近はどのような活動やプロジェクトに取り組んでいるのですか?

―― 河合さん
防災の記事に限らず、『オレンジページ』で取り扱う多彩なコンテンツは、多くの生活者の方々に役立つものばかりだと自負しています。でもそれが、紙の誌面だけで完結してしまうのは『フェーズフリー』じゃないな(笑)、という思いが徐々に出てきまして、今年になってやっと防災に関するWEBコンテンツ『オレペのいつでも防災』を立ち上げました。

―― 佐藤
重要な取り組みですね。

―― 河合さん
はい。まずは吉川をはじめ皆でこれまでにつくってきたコンテンツをいつでも見られるようにしつつ、今後はオリジナルの情報もどんどん増やしていきたいです。防災コンテンツをWEB上に常設することで、欲しいときにいつでも簡単に情報が取れるようになりますし、『オレンジページ』らしい、リアルな生活に根付いた洗練された情報を発信することに、この企画の意義があると考えています。
これは雑誌の編集方針でもあるのですが、どのような企画内容であれ、読者の方々が抱く不安とか不満とか不便というものを解決するコンテンツが大切です。だからといって不安を煽るのではなく、やはり自分たちらしい温かさのようなものも一緒に提供したいと思っています。
読むと安心できる、これさえやればこういう安心が得られる、だったらやってみようと思えるようなコンテンツの発信を必ずしようとメンバーで話しまして、タイトルを「気持ちにゆとりが生まれる オレペのいつでも防災」としました。

―― 佐藤
防災や『フェーズフリー』の活動において、『オレンジページ』さんのコンテンツはものすごく力強いと感じています。新サイトを立ち上げての反響はどうですか?

―― 河合さん
このサイトを立ち上げてすぐに、Twitterで告知を兼ねたプレゼントキャンペーンを実施したのですが、4,000以上のリツイートをいただきました。これには姜も非常に驚いていました。

―― 姜さん
そうなんです、この反響の大きさには私たち皆びっくりしましたよね。本当にすごいことだなって。やはり、気付きの連鎖の“最初の気づき”を立ち上げない限り、その時だけになってしまうので、こうして継続的にコミュニケーションを取り拡大していける場はとても重要と感じました。
私自身が『フェーズフリー』という言葉に出会って、会社の中で発信していったら、こんなにもいろんな関連の部署の者たちが集まってさまざまなものごとが進んでいくようになり、とても嬉しい瞬間でもありました。

―― 河合さん
姜が今お話ししたように、『フェーズフリー』という言葉や概念があることで、社内でもいろんな広がりが生まれています。

―― 佐藤
今現在、さらに今後はどんなふうに広げていこうと思っていますか?

―― 河合さん
部署の先輩が、夏期休暇のうちの貴重な3日間を使って、家の電気・ガス・水道を使わずに過ごすというトライをしたんですね。その彼女が言っていたのが、「経験しないと分からないことがいっぱいある=普段から実践しておくべき」ということなんです。
例えば、味の濃い非常食を連続で食べていると、二日目くらいからあれをもう一回食べるぐらいだったらもう何も食べなくていい…と思うとか、夏でも温かいものが食べたくなるとか。普段やっていないことを被災時にやるのはすごくストレスだし、前もって知っていたら対策できることがたくさんあります。
『フェーズフリー』が提案していることって、日常のスキルをそのまま被災時に使うという話なので、実はすごく実践的なんだよ、ということをもっと発信していけたらいいなと思っています。

―― 佐藤
そうですね。本当にそれが気づきだし、SNSなどでも実はこれは『フェーズフリー』みたいなものがどんどん広がってくれたら嬉しいですね。

―― 姜さん
これまでに手がけてきたコンテンツに、これって『フェーズフリー』だねというものがたくさん眠っていると思うんですよね。これからそのあたりを、もっともっと掘り起こして、気づきの連鎖を生み出していきたいですね。

姜さんとの対談-4

株式会社オレンジページさまの会議室での対談を終え笑顔の皆さんと佐藤

『フェーズフリー』の裾野を広げるフェーズフリーアワードに期待

―― 佐藤
昨年の9月にフェーズフリーアワードが開催されましたが、その半年ほど前ですよね。僕が姜さんのところに「生活者の視点が必要なんです」と飛び込みで(笑)お願いに行った。フェーズフリーの審査委員には提案する側の人たちが多い中で、生活者の視点を持った審査委員にどうしてもいていただきたくて、姜さんにお願いに行ったんです。それが昨年の3月ぐらいで、そこからもうこんなに社内で、いろんな活動につながっているとは、嬉しいと同時に驚きですね。

―― 姜さん
そうですね、私が急に『フェーズフリー』って社内で言い出したときに、それぞれの部署のそれぞれの人たちが、“今”の自分の生活に『フェーズフリー』を落とし込んでいろいろと考えてくれた。十人十色のいろんな答えが出て、実際にカタチとなって発信できてきているのがうちらしいなあと思っています。
そして、いろいろな角度から発信していても、そこに共通している軸は「いつも“は”もしも」という発想です。

―― 佐藤
私も本当にそう思います。第2回のフェーズフリーアワードでは、まさに姜さんのおっしゃる「いつも“は”もしもなんだよね」という言葉の通り、『「いつも」を良くする。「もしも」を良くする。社会が変わる』というキャッチコピーを掲げています。いよいよアワードのスタートですが、2回目の今回に期待するところはありますか?

―― 姜さん
「今の生活を考える」きっかけになって欲しいですよね。
『フェーズフリー』は形あるものばかりではなく、日々の生活の習慣の中にこそあります。もっともっとゆるいと言いますか、「身近な生活の中にあるそんなこと、あんな考え方も『フェーズフリー』ですよ」とも発信し続けていき、社会が変わっていくきっかけづくりを少しでも担えればと思っています。

―― 佐藤
そうですね。“ゆるさ”と言いましたが、参加のしやすさというか、ハードルの低さがあれば、もっともっといろんな人の気づきや考えるきっかけになってもらえる。

―― 姜さん
私たちは“ゆるい”とか“楽しい” が大好きな会社です。「これがフェーズフリー?」とか「これもフェーズフリーなんだ!」といったことを、どんどん拾い上げて発信していきたいですね。2022年のアワードもとても楽しみにしています。

―― 佐藤
ぜひよろしくお願いいたします。ありがとうございました!

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