審査会での議論を経て「事業部門」「アイデア部門」の各賞の受賞者が決定し、2021年9月11日(土)にフェーズフリーアワード2021授賞式ならびにシンポジウム(パネルディスカッション)が執り行われました。来賓、受賞者、審査委員、実行委員会、そして各メディアなど数多くの人が列席し、「フェーズフリー」にとって大きな一歩となる一日となりました。
写真・文:西原 真志
フェーズフリーへの理解を深めるために
フェーズフリーアワード2021の授賞式の終了後に、「フェーズフリー」やフェーズフリーアワードの意義や捉え⽅、未来に向けての想いや期待などの意⾒を交換し合う、審査委員を中⼼としたパネルディスカッションが開催されました。
各審査委員と参席者が向き合う形で⾏われたこのパネルディスカッションでは、「フェーズフリーとは」「今後のフェーズフリーアワードに期待すること」という共通の⼆つの質問が設けられ、その回答を各審査委員が事前に⽤意したパネルと共に独⾃の⾒解を発表(P78~P81参照)しました。それぞれの審査委員が有する専⾨的な視点から⾒たユニークな意⾒や、これから改善していくべき点、未来への展望などが語られ、さらには来場者からの意⾒も発表されるなど参加者が⼀体となっての議論が繰り広げられました。「フェーズフリー」ならびに、来年に開催されるフェーズフリーアワード2022へとつながるパネルディスカッションとなりました。
フェーズフリーに対するそれぞれの想いを発表
フェーズフリーアワード2021の第2部として開催されたパネルディスカッションは、審査委員をはじめ受賞者、来賓、実⾏委員などが⼀堂に会して⾏われ、⾏政、暮らしと⾷、オープンイノベーション、デザイン、建築設計、防災⼯学といった、各分野の専⾨的な視点からの想いや意⾒が発表されました。また数ヶ⽉間にわたって本アワードの取り組みに関わってきた各審査委員からは、「審査や評価の難しさ」や「より良いアワードにするための改善点」といった率直な感想も述べられ、安⼼で安全な社会を実現することを⽬的とした「フェーズフリー」が、より社会に広がり浸透させていくための議論も多く交わされました。
パネルディスカッションの後半では、参加者による「フェーズフリーとは?」の問いに『防災を格好良く楽しむためのきっかけ』、「フェーズフリーアワードに期待することは?」という問いに『産学の両⾯で』と期待が語られるなど、改めて全員で「フェーズフリー」を考える良い機会となりました。
授賞式・パネルディスカッション合わせて約4時間にわたる会を経て、フェーズフリー協会代表理事の佐藤唯⾏による「このフェーズフリーアワードとは評価をするということだけではなく、フェーズフリーとは何かという基軸をしっかりと⽰し、間違った解釈を防ぐことも⼤切な⽬的と考えている。今回のアワードを通して得られたさまざまなことをまた次に⽣かし、さらに社会に還元していきたい」という挨拶で、記念すべき第1回⽬が終了しました。
テーマ①「フェーズフリーとは?」
パネルディスカッションの最初のテーマは、「フェーズフリーとは?」という問い。各審査委員からは、次のような個性的な回答が発表されました。
デザイン・編集を専⾨分野とする下川⼀哉委員からは、「フェーズフリー」とは『ニーズ×リスク=イノベーション』であるというパネルが掲げられ、「ニーズとリスクを意図的に出会わせ、掛け算でイノベーションとする」と説明が⾏われました。
続いてオープンイノベーションを専⾨とする須﨑彩⽃委員からは、『⾮⽇常に思いを巡らせるために、⽇常も触れていられるモノやサービス』ということで、特別なことを、どのようにして特別でない状態にするのか、それを考えるきっかけが「フェーズフリー」という⾔葉の⼒であると発表されました。
暮らしと⾷を専⾨分野とする姜明⼦委員からは、ローリングストックを例に挙げながら、⾮常時でも⾷べ慣れているものによる⼼の安寧を求め『“もしも” に強い“いつも” を⽣きる ~“いつも”の習慣が“もしも”を助ける』との答えが掲げられました。
デザインが専⾨分野の⽥中⼀雄委員は、「フェーズフリー」とは『防災意識の⺠主化:いつものもしもを忘れない』との考えを表し、防災グッズが広がらないことの理由に対しての、“フェーズフリーの意義” についての⾒解が語られました。
続く建築設計を専⾨分野とする三井所清典委員からは『“開く事” “開かれたコト” あるいは“開かれたモノ” と思います。広場は開かれた場所です。建築にも、住まいにも“広
場” を、⼼にも“ひろば” を持ちたい』というパネルが⽰され、物理的に開かれた公園や、開かれた企業間コラボレーションが事例として紹介されました。
「気づいたら、防災だった!」とユニークな回答を⾒せたのは、⾏政・地⽅⾃治の専⾨家である奥⼭恵美⼦委員。通常の難しさをともなう防災とは異なる、「フェーズフリー」ならではの親しみやすく、柔らかなアプローチに対しての⾒解が述べられました。
防災⼯学の専⾨家である⽬⿊公郎委員からは、防災をコストからバリューに変え、防災をビジネスとして持続可能なものにできるのが「フェーズフリー」であるとして、『⽇常⽣活の質の向上と無意識のうちに実現する継続的な防災対策』と紹介されました。
そして、この問いのラストを飾ったデザインを専⾨とする太⼑川英輔委員は「レジリエンスの基本」と回答し、中間領域を積極的に創出し、⼈と⼈の関係性を柔軟に設計していく“レジリエンスの重要性” を⽰しました。
このように、それぞれの専⾨分野の視点から、「フェーズフリー」に対する⾃由な解釈や期待が語られました。
テーマ②「フェーズフリーアワードに期待すること」
パネルディスカッションの⼆つ⽬のテーマは「フェーズフリーアワードに期待すること」でした。ここでも、各審査委員からの⼗⼈⼗⾊の回答が発表されました。
下川委員からは『災害だけでなく、多様なリスクを照準に』という回答に対し、病気なども含めた多様なリスクへのフェーズフリーの役割への期待が語られました。
須崎委員からは『災害だけでなく、あらゆる⾮⽇常をフェーズフリーに変えていく』という思いが発表され、⾮⽇常にもグラデーションがあり、その領域に「フェーズフリー」の概念を持ち込むことで領域や市場を広げていく可能性について説明されました。
姜委員は『気づきの連鎖を⽣む「場」の提供』として、コミュニティを⽣み育んでいく場としての、フェーズフリーアワードの可能性や魅⼒が紹介されました。
⽥中委員からは『「レジリエント・デザイン」と「防災デザイン」の明確化』と発表され、将来を⾒据えたアワードにおける審査基準の精緻化についての提⾔がありました。
三井所委員は『概念が定着してできるだけ早く社会の通念となることを願っています。そのためには、数少ないトップを引き上げるだけでなく、⼈が気付きにくい沢⼭の「コト」
や「モノ」を称揚・賞賛することで、多くの⼈が多様な「モノ」や「コト」に関⼼を持つようになります。それが通念化への近道だと信じています』と本アワードへの期待が語られました。
奥⼭委員は『⾜し算を掛け算に』とのパネルを掲げ、「防災への意識や取り組みは、広く社会や⼈々に浸透させることが肝⼼ですが、なかなかそれが難しい。アワードに参加することや選ばれること、またそれを⾒ることや実際に使うことなどによって、会社、⾃治体、学校、業界などの集団が、団体ぐるみで「フェーズフリー」に巻き込まれていくようになることを願う次第』と、⾏政と⺠間それぞれの得意・不得意の観点から、「フェーズフリー」により想定外を乗り越える⼒への期待を寄せました。
⽬⿊委員からは『費⽤便益分析(B/C)における新たな便益(B)の気づき』ということで、コスト(C)を減らす限界に対して、便益を増やし市場を広げることに気づきを与
えるのが「フェーズフリー」であるとの意⾒がありました。
太⼑川委員は『審査の簡略化。アワード受賞数増やす。コミュニティ化』と⽰し、審査のあり⽅、⾦銀銅と順位付けする受賞のあり⽅についての意⾒を発表しました。
第1回となるフェーズフリーを⽀えた審査委員たちから、改めて「フェーズフリー」やフェーズフリーアワードに対する熱い想いや改善していくべき点などが⾃由に語られ、次へのたくさんのヒントとなる意⾒が数多く交わされました。
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