フェーズフリーアワード2022 最終審査委員会
まだ歩きだしたばかりの取り組みである、第2回目のフェーズフリーアワード。そのため、審査のプロセスはまだまだ未完であり、不確かさや疑問、課題が残っています。だからこそ、この審査委員会では模索を続けました。
「日常時の私たちの暮らしを豊かにしてくれるものが、非常時の命や生活を支えるようにデザインされていること」。このフェーズフリーの概念をアワードとして評価するとは、いったいどのようなものだったのでしょうか。
4時間に及ぶ熱い議論。予想外の展開の数々。手探りながらも交わされた意見の果てに、見えてきたたくさんの疑問や問題点。「フェーズフリー」に多方面から向き合った審査委員たちはいったい何を見て、何を語ったのでしょうか。
最終審査委員会-1

長時間となった最終審査委員会を無事に終え、審査委員全員そろって笑顔の記念写真

2022年8⽉10⽇、フェーズフリーアワードの最終審査委員会が開催されました。会場は昨年と同様、千葉⼯業⼤学スカイツリータウン®キャンパス。
このアワードはフェーズフリーの原点に何度でも⽴ち返ることができるよう、「基軸」としての役割を担っています。そのため審査委員は、応募対象を『フェーズフリー』の視点から審査しなければなりません。とは⾔うものの、アワードそのものが第2回⽬というまだ歩きだしたばかりの取り組みであり、審査とはいえ、その過程のすべてにまだ不確かさや疑問、課題が残ります。だからこそ、ここで審査委員たちの⼝から語られるのは、ありきたりの評論ではないのです。
審査委員は昨年に引き続いての7名に、2名の新メンバーが加わり、審査の仕⽅それ⾃体に専⾨性の広がりを⽣むチームとなりました。こうした審査委員の多様さの背景には、「フェーズフリーという概念の持つ多様性をもう⼀度、多くの⾯から語り合う場にしたい」という主催者側の想いがありました。「フェーズフリー概念への間違った認識の広がり」を危惧していたからです。
前回のアワード以降、少しずつですが確実にフェーズフリーは広がりました。しかしもう⼀⽅で、間違った認識や誤解が⽣じることもありました。フェーズフリーという⾔葉が使いやすいからこそ、「フェーズフリーとは何か?」私たちフェーズフリーの発信者は、注意深くそう問い続けなければなりませんでした。

事業部門:一筋縄ではいかない審査

最終審査委員会-2

広く深い経験と照らし合わせて

事業部⾨から始まった議論は、⼀筋縄ではいかない展開となりました。
例えば、⾮常時でも⽇常時でも使えるベビールーム商品には、「時代的な新しさがあるものの、コスト⾯などの現実的な課題がある」という指摘がありました。さらには、機能性が評価された商品であっても、デザインの専⾨家から「⽇常でも使いたくなるほどのデザインであるかどうか」という厳しい意⾒がとんだり、「他の⾮常時専⽤商品に、さらに機能の優れたものがあるのではないか」という類似品問題が浮上する場⾯もありました。その他、フェーズフリーのために素材からの開発に挑戦した応募対象について、「何を評価すべきか?」という問いが⽣まれるなど、事業部⾨での議論は多岐にわたりました。
特に事業部⾨GOLD賞の選定の議論は⽩熱しました。委員の⼀⼈がクリーンセンターへの熱い思いを語る場⾯もありました。それは当施設が「計画段階からフェーズフリーコンセプトで設計された」という内容の深さに対する評価でしたが、⽟井委員がこの議論に「待った」をかけ、他の応募対象への思いを語るという展開もありました。
「⽊材のローリングストック」の、シンプルでありながら汎⽤性に富み、⽇本のどこにでも設置可能な建築である点を⾼く評価し、世の中全体としてこうした建築への認知度がそれほど⾼くないことに着⽬しました。そのような⽟井委員の意⾒をきっかけに、いったんはGOLD賞がクリーンセンターに決定したにもかかわらず、特別賞を新設すべきか、という議論もありました。

最終審査委員会-3

前向きに議論を深める

アイデア部門:リアリティ問題

最終審査委員会-4

真剣だからこそ困難な問いを提起

アイデア部⾨の審査では、事業部⾨以上に指摘が専⾨的になり、「そもそもアイデア部⾨とは何か?」という、定義や審査のあり⽅に対する根本的な疑問にも直⾯しました。
フェーズフリーアワードの審査においては、⽇常時と⾮常時のバランスを重視しています。その⼀⽅で、審査委員会の⼟俵の上では、専⾨家の⽬線から「実現可能か」「どこまで対応が可能か」についても深く考慮せざるを得ません。
例えば、布製ヒーターを使ったポータブルな調理バッグはキャッチーで審査委員からの⼈気も⾼かったのですが、暮らしと⾷のエキスパートである委員の意⾒を聞けば、その実⽤性や具体性の不明瞭さが問題となりました。また、事前投票では全9名のうち7名の委員から評価され暫定1位であった避難施設が、防災の専⾨家2名の意⾒によって、もう⼀度⾒直しになる場⾯もありました。
「アイデア部⾨とは何か?」「有効性に疑問の残るものに賞を与えても良いのか」という部⾨そのものへの問い、さらには「来年からは、アイデア部⾨をさらに年齢やカテゴリーごとに細かく分けるのはどうか?」という改良案さえも検討されました。
議論が続くにつれ、実現可能性の問題は厳しくなり、ついには防災の観点から⽬⿊委員が「賞を与えること⾃体への危険性」に⾔及することもありました。どこまでも審査委員を悩ませたのは、「気づき」という観点で評価するアイデア部⾨とはいえ、世間の⽬にとまることで情報が⼀⼈歩きするのではないかということへの危惧だったのです。

熱い思いの果てに

最終審査委員会-5

この審査の本質的な役割について語る

「受賞対象なしで良いのではないでしょうか」
アイデア部⾨のブロンズ賞の議論は⻑丁場となり、停滞した空気の中である委員がそう提案すると、おそらくそれが唯⼀の解決策であるだろうという安堵感が、審査委員だけではなくその場に居合わせた⼈々のなかに⼀瞬、流れ込みました。
「フェーズフリーアワードは運動だから」沈黙を破ったのは三井所委員でした。「フェーズフリーそのものが活動として広がり始めた今、その動きを⽌めないことに意味がある。だからこそ、対象なしという結末でこの審査委員会を終えるには、あまりにももったいない。授賞をなくすのではなく、気づきとして、楽しみとして少しでも多くの⼈に伝わってほしい……」
そうした三井所委員の意識に呼応するかのように、リアリティとの整合性に苦戦していた審査は、再び「今後への可能性」という観点から活路を⾒いだし、審査委員たちの意⾒も徐々に、応募対象の「可能性」に向けられるようになりました。4時間に及ぶ最終審査委員会は、さまざまな課題を乗り越え、「評価」の中にも新しい意味合いが⽣まれました。そして、多彩な専⾨家の集まりにもかかわらず、誰もが納得し、⼼地よい達成感を共有するという形で幕を閉じました。
このように、第2回フェーズフリーアワード最終審査委員会は「受賞対象を選出する」だけではなく、そこに関わる⼈すべてが「参加し、考えていく」、すべての⼈が「⼿探りで学び合い、つくり上げる」会であり、「次への可能性としての特別な学びの場」です。いわばフェーズフリーをより多くの⼈へ広げるための創発性のスイッチなのです。

この記事をシェア