姜明子さん

株式会社オレンジページ 常務取締役

姜 明子さん

フェーズフリー協会代表理事の佐藤唯行(以下:佐藤)と、フェーズフリーアワードの審査委員を務める、暮らしと食分野に関する豊富な経験や知見を持つ姜明子さん(以下:姜さん)による『フェーズフリー』に関する対談が行われました。
暮らしと食のエキスパートである姜明子さんが抱く『フェーズフリー』への想いとは?

※対談はマスクを装着し行っておりますが、撮影用に一時外している場合がございます。

姜さんとの対談-1

姜明子さん(右)とフェーズフリー協会佐藤による対談が行われました

“今”の連続で未来がつむがれる、それはまさに『フェーズフリー』

―― 佐藤
フェーズフリーアワードの審査委員を引き受けていただきありがとうございます。姜さんは、暮らしの視点、生活者の視点というものをずっと大切に『オレンジページ』などのメディアを運営してこられたと思うのですが、『フェーズフリー』という言葉を初めて聞いたときの印象はどのようなものでしたか?

―― 姜さん
今まで知らなかったり気づかなかったりした事象が、『フェーズフリー』という概念を通して分かるというか、腑に落ちるようになったと感じています。
古神道に「中今」(ちゅうこん/なかいま)という言葉があるのですが、これは「未来も今も、そして過去も今の連続ですよ」という意味なんですね。「時間というものは、今の意識が連続してつくり出された集合体である」と私は理解しているのですが、日常の連続性の、その先にあるものというのが、まさに『フェーズフリー』だと思っています。

―― 佐藤
『フェーズフリー』を日本語で表現するのはとても難しいのですが、確かに「中今」というのは近いし面白い表現です。

―― 姜さん
今の連続に未来があり、今何をやっているかということがこれからをつくっていきます。今のあなたがどういうことをやっていますか? というのが未来やもしもの時につながっていく、それがまさしく、古神道の「中今」=英訳すると『フェーズフリー』なんじゃないかなって。

―― 佐藤
なるほど!

―― 姜さん
“いつもともしも”という言葉がありますが、私の中では接続詞が “と”ではなくて“は”。「いつも“は”もしも」が、頭の中でオルゴールのようにまわっています。

これから先を考えたときに、“今”がとても大切になる

姜さんとの対談-2

姜さんは「生活とは、生き方そのもの」と話してくださいました

―― 佐藤
「中今」とは、これまでも意識していた言葉なのですか?

―― 姜さん
そうですね。古神道とは、日本において昔からの「自然の在り方」といったことだと理解していまして、「中今」という言葉についても「あっそうか、『フェーズフリー』ってそういうことなんだ」という風に、自分ですんなりと理解できたんです。

―― 佐藤
「いつも“は”もしも」とか「中今」といったような、「これから先のことというのは、今がすごく大切なんだよ」という考え方は、暮らしや生活そのものなのですね。

―― 姜さん
生活って、つまりはその人の「生き方全体」だと思っているんです。自らを取り巻く社会の中で日々を生きていくことが生活だから、そこにどう取り組んでいるかということを突き詰めていくと、それが「中今」であり『フェーズフリー』なのだろうと思ったのです。

―― 佐藤
そうですよね。防災とか災害というと地震、台風とか火山噴火、特に今はウイルスなど人類が地球上で社会生活を営んでいく上ではコントロールできない現象が想起されがちですが、実はこれだけでは災害は起きないんですよね。どうして災害が起きるかというともう一つの要因があって、「ヴァルネラビリティ(社会の脆弱性)」というのですが、ハザードが発生した時に社会の脆弱性が重なると災害になるんです。
例えば、東京とサハラ砂漠で震度7の地震が起きたらどうなるでしょう。都内で震度7が発生したら被害が起き災害になりますが、サハラ砂漠ではそうではない。この違いは、脆弱性があるかないかなんです。でもこの脆弱性って災害時に特別に発生するわけじゃなくて、普段私たちの暮らしの中にすでにあるんです。脆弱性はもうすでに私たちの中に存在していて、要は「中今」、未来の話ではなくて今なんですよね。だから災害を起こさないためには、今の私たちの暮らしの脆弱性を小さくしなければいけない。それは今、姜さんがおっしゃってくださった“生活”なんですよ。

―― 姜さん
そう、“生活”なんですよね。もしかしたら『フェーズフリー』という概念が、その人の「生き方」を考え直す、いいえ、「生き方」そのものを決めていくものかもしれません。

―― 佐藤
例えばメディアなどで普段の私たちの脆弱性の改善を、「地震に備えてヘルメットを置きましょう」だとか「食事を数日分備蓄しましょう」など、災害時の特別な価値で実施しようとしていて、それがなかなか生活者に伝わらなかった。そこで「生活者の『フェーズフリー』とは何なのか?」ということを、暮らしや生活、または生き方という観点から姜さんと考えてみたいんです。

食に向き合うこと、それは人生に向き合うこと

―― 姜さん
「暮らしと食」という観点からお話しさせていただきたいと思います。暮らしとしては、(コロナ禍の)この一年で、自身や家族やコミュニティーの概念が大きく変化しましたよね。すべての概念とか価値観が今までにないレベルで多様化が進んだと思います。その中で2つ重要なことがあり、一つが「自力の強化」、もう一つが「身近の深化」です。

―― 佐藤
ぜひ教えて下さい。

―― 姜さん
「自力の強化」は例えば、免疫力を高めたいとか心を鍛えたいとか、感染しない体をつくりたい、自分が強くならないとって多くの人が思ったことですね。そのためには、どう暮らしていくのかっていうことにつながるのですが、それが「身近の深化」です。ステイホームを通して、「家族」の中での自分の存在意義や役割を確認するようになりました。日常において「○○は自分がやるべき」、「○○は家族で分担して共有しよう」など、自分の身の回りを深めていったと思います。

―― 佐藤
コミュニティーの中での自分の「役割」、言い換えれば「“いつも”という私たちの日常」を見つめなおすことが、“もしも”のときにも役に立つのではないだろうかということが導き出せたということですね。

―― 姜さん
そうです。それは「家族」にとどまらず、もう少し広がって「身近のコミュニティ」も同様です。自分の地域に興味を持つことで避難施設とか災害への備えの大切さを知ったり、自分が知らなかった脆弱性を認識できたりしたと思うのです。「隣は何をする人ぞ」から、例えば「おはようございます」「ありがとうございます」という挨拶を交わしながら、身近を深めていくことで、何か困ったときに助けを求める等の行動が取りやすくなる。つまりは「今」のいつもを「未来」のもしもにつなげる暮らしが大事であるという事実を認識した1年だったと思っているのです。

―― 佐藤
食の方ではいかがですか?

―― 姜さん
私自身、自分の人生の中で食に向き合った結果、生き方そのものと向き合うことになりました。例えば自分のこれまでを考えたときに、いろんな困難に直面したときも食べ慣れたものを食べるということは、とても心の支えになりました。例えば「ローリングストック」も「備え」というイメージになりがちですが、災害時に「いつも食べているものが食べられる」ことが「ローリングストック」なのです。いつもと同じという安心感は、心の支えになるのです。
またそれは、フードロス削減にもつながっています。無駄なコストをかけずに余っているものを冷凍しておく。冷蔵庫の整理にもなり、気分も爽やかになる。さらにはフードロスを考えて「ローリングストック」したものを冷凍庫にみっちりきっちり詰めることで、電気代が削減できる。「今」を考えることで「未来」につながる。まさにすべてが『フェーズフリー』なのです。

―― 佐藤
私たちの日常の価値によって、食の脆弱性を小さくすることができるということですね。すごい。食と向き合っていた結果、生活や生き方と向き合うことになったとのことですが、それは生活における食の割合が大きいというか、食と向き合うとどうしても生活や生き方と向き合わざるを得なくなるということでしょうか?

―― 姜さん
私も、もちろん「おいしい」だけにかたよっていた時期もありましたが、だんだんと自分の体は自分が食べたものでできているというのが、年を重ねるとともにすごく分かるようになって。じゃあ何をどのように摂ったらいいだろうとか、どう供給確保して食べていけばいいだろうとか、そういったことを考えていくと、自分の生き方と「食」の関わり方の基本ができてきたんですね。

―― 佐藤
生活において衣・食・住という三大要素みたいなものがありますが、その中でも食は、その他のいろんな生活に関連していくということなんですね。

―― 姜さん
着るものも住む場所ももちろん大事なことではありますが、食べなければ長期にわたる健全な「生命体」の持続が不可能です。

―― 佐藤
食と向き合うことは自分の暮らしそのものをみつめること、ひいては自分の体そのものをデザインしていくことというのは、オレンジページ誌のコミュニティーの方々とも共有できているテーマなのですか?

―― 姜さん
はい。生活のリアルや本音を語る場として活動をつづけ、今年で36年目になります。佐藤さんがよくおっしゃっている“気づき”といいますか、誰かがやっていることを見て、気づいて、「あっ、それ」と自分に落とし込んで、それをまた他人が見て「あっそうなのか」ということにつながっていく。それは『フェーズフリー』にもあると思っています。

―― 佐藤
その通りです。生活の便利だとか工夫みたいなことで実は脆弱性を小さくできるアイデアがいっぱい出てきて、他の人も真似したいし真似をすることによって、実は「いつも“は”もしも」に役立っているということにつながっていくんです。こういった連鎖が、どんどん広がっていけばいいなと思います。防災と言ってしまうととたんに難しく考えられてしまいますが、「中今」を充実させていくことが重要だと。

―― 姜さん
そうですね。本当に、「気負うことはないんだよ『フェーズフリー』って」ということを伝えていければいいのかなって。

姜さんとの対談-3

姜さんの好きな言葉は「気は長く、心は丸く、腹は立てずに、人は大きく、己は小さく、口は謹んで、命は長く」だそう

気づきの連鎖をもたらす『フェーズフリーアワード』に

―― 佐藤
『フェーズフリーアワード』はまさに、人々に気づきの連鎖みたいなものを生み出していくことが大きな意義の一つだと思っています。

―― 姜さん
繰り返しになってしまいますが、生活とはつまり「生き方全体」です。自らをとりまく社会環境の中で、日々を生きていくことを改めて見直すこと、その気づきをもたらしてくれる機会が、このアワードだと思います。成り下がると言ったら変ですが、『フェーズフリー』というものが「当たり前の一般」に成り下がる必要がありますよね。普遍化する必要がありますよね。

―― 佐藤
その通りです。一般に成り下がらないと広まらないというか、一般に成り下がらないと多くの人が参加できないですよね。

―― 姜さん
そうですよね。たぶん私がここにいる役割っていうのは「肩ひじ張らなくていいよ」って、そういうことをどう伝えて一緒に考えていくかということだと感じています。だからたくさんのいろんな暮らしのアイデアが出てくるといいなって、そう思っています。

―― 佐藤
それにまた触発されて、また新しいアイデアが来年出てくるとかっていうようになっていくといいですよね。

―― 姜さん
そうそうそう、本当。「えー」みたいな、「面白、これ」っていう感じですよね(笑)。 「食」や「暮らし」というのは、『フェーズフリー』の大きなテーマになり得ます。その二つを見つめなおすことが『フェーズフリー』につながります。「いつもはもしも」、「もしも」に強い「いつも」を生きたいですね。

―― 佐藤
やはり、今の私たちの暮らしを見つめなおすことが大切なんですね。姜さんから「私たちの日々の暮らしを見つめなおすことっていうのがすごく重要で、それが本当に“フェーズ”を超えるし、災害時にも私たちにも役立つことなんだよね」と言っていただいたのは、本当に嬉しいしすごくありがたいです!

―― 姜さん
フェーズフリーな世界づくりを、皆で一緒にしていきましょう。

姜さんとの対談-4

熱い対談を終え笑顔を見せてくださった姜さんと佐藤

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