事後対談-1

一般社団法人フェーズフリー協会代表理事

佐藤 唯行

フェーズフリーアワード2022実行委員長

岩田 彰一郎さん

文:西原真志 写真:豊島望

※撮影用に一時マスクを外して対談を行なっております。

応募を待つだけでなく、世の中の『フェーズフリー』を見つけ表彰していくのも一つのアイデア

―― 佐藤
フェーズフリーアワード2022の授賞式・シンポジウムを終え、親睦会でにぎわっている最中ではありますが、少しお時間をいただき今回のアワードやこれからの『フェーズフリー』についてお話を伺わせてください。

―― 岩田さん
はい、よろしくお願いします。

―― 佐藤
岩田さんは今回初めてフェーズフリーアワード実行委員長として我々を引っ張ってくださいましたが、アワード全体に対する所感ですとかご指摘事項がありましたら教えていただけますでしょうか。いっぱいあるかと思うのですが……。

―― 岩田さん
まずは本当にお疲れさまでしたというか、佐藤さんも矢面に立っているし、現場を運営していただいた学生さん含めて、皆さん本当にお疲れさまでしたというのが第一ですね。
その中で、アワードの表彰という意味では、それぞれ良い方々を表彰できていると思いますけれども、より大きな社会運動にしていくためには、もっと企業の力を借りたりとか、世の中のメインフレームにしていくステージが来期以降さらに重要になると思いました。
『フェーズフリー』とは何か?という議論も引き続き大事ですが、詳細な議論に入っていくと多くの人がついていけなくなったりするので、「とにかく日常時も非常時も役に立つものを持とう」というシンプルな定義でいいのではないかと思うんです。ビジネスの世界の方から見ると、そういったコンセプトのものがたくさん生まれ、評価されて売れていく。売れていくもののヒントとして『フェーズフリー』というものがあると認識され、結果として『フェーズフリー』なものが世の中に普及していく。それが我々のモットーであるといった、そういった立ち位置を明確にすることも改めて大事だと感じました。

―― 佐藤
確かに『フェーズフリー』において、企業の参加を明確に描きながら、より大きな運動にしていかなくてはならないフェーズに入っています。その中で、多くの人たちがもっと参加しやすい形で進めていかなくてはならないと、岩田さんのお話を聞いていて感じました。
我々がこのフェーズフリーアワードで何をしているのかと言いますと、フェーズフリーアワードはオープンなイノベーションで、誰かがそのマーケットを牛耳っているわけではありません。そうではなく「自由に皆さん参加してください」と呼びかけている中で、いわゆる基軸をつくっていくことや『フェーズフリー』とは何かを発信していくこと以外、あまりできることは多くないのが今まででした。アカデミックに突き詰めていくのではなく、先ほど岩田さんがおっしゃった「いつも」と「もしも」をシンプルに、多くの人たちが参加しやすい方法で進めていくのが良いのではないかというのは、本当にそのとおりだなと思います。

―― 岩田さん
難しいことや概念的なこと、抽象論などに終始していると、参加した一般の人たちや来ていただいた方たちにも難しくて、ぐるぐる回って「?」に陥ってしまう。実際に取り組んでいる結果としての事例をどんどん世の中に紹介していくことが、今とても重要になっていると思います。商業主義的な価値観と、学者さん的な価値観、さらには防災の専門家の価値観とか多様な視点があっていいと思うのですが、生活者を守る一つの活動として効果が見える、スケール化したステージに次の段階では行きたいなという点を強く思いました。

―― 佐藤
学術的・防災的に限らず商業的というのは、すごく『フェーズフリー』の活動において重要になっています。どんなに優れた商品、災害時に役立つ商品があったとしても、それが人々の手に届いていなければ意味がない。

―― 岩田さん
そうですね。

―― 佐藤
そのモノ・商品が売れれば、つまり、ビジネスとして成功すればするほど、多くの人たちに届けば届くほど、この世の中の災害という課題、脆弱な世の中を解決していけると考えると、商業的という観点はすごく重要になります。それはもう最初から意識していることではあるのですが、自分がそこにすごく疎くて、この活動をどうやって商業的なセンスで広げていけばいいのか、ほとんど暗中模索の状態で歩いているような感じで……。そんな中で岩田さんを頼ったというのが現状なんですね。

―― 岩田さん
これも二通りあって、学術的・防災的に考えた知恵としての重要な部分と、いざという時に本当に役に立つのは何かといったさまざまな現場からの視点で考えた部分とで、必要なことが見えてきますよね。啓蒙的なことと、実際の災害現場で役に立っている実態とか、いろんな角度からの見方で評価をしていくことも大切です。識者による「これは『フェーズフリー』である」、「『フェーズフリー』にとって有効である」という評価と、生活者視点に軸足を置いて、本当に困った時に役立ったものをどんどん世の中で循環させて得られる人々からの評価、その両方・両軸があるべきだという気がしますね。

―― 佐藤
そうですね。今までは識者による評価は金銀銅賞の授与で、人々の評価はオーディエンス賞がありました。そこは岩田さんから見ると、機能していないと感じますか?

―― 岩田さん
オーディエンスの集め方もあるとは思うのですが、実際に世の中に発表されているものであれば、商品の売れ行きとか個数もはっきり見えてきますよね。例えば、日清食品さんが取り組んでいる完全栄養食は「いつも」も「もしも」も活用できますし、飲料メーカーのスポーツ飲料などは運動時だけでなく熱中症対策にも役立っている。そういったものの中に、「これって『フェーズフリー』だよね」というものが必ずあるんです。それを我々で判断して、どんどん表彰していけばいい。そしてそれらは、実際の数としてはこんなに売れているというデータも同時に伝えてることで認知は高まっていく。

―― 佐藤
なるほど。今までのフェーズフリーアワードは応募を待っているだけでしたが、今ご指摘いただいたように、こちらからアプローチして表彰してしまうことを実現しても良いということですね。

事後対談-1

フェーズフリーアワード2022を振り返る実行委員長の岩田彰一郎さん

企業やベンチャー、若い人なども含めて、『フェーズフリー』を大きなうねりに育てていく

―― 岩田さん
そうですね。例えば大手企業の広報が「フェーズフリーアワードを受賞しました」みたいなことを発信して、それによってまた『フェーズフリー』が広がっていくこともあると思うんです。それが『フェーズフリー』という言葉の拡大にもなるし、皆さんが努力を重ねて実現してきたこの価値観が、世の中に着実に普及するきっかけになっていくのではないかと思うんですよね。

―― 佐藤
応募されてきたものも、それから我々が世の中から選んできたものも、同じく審査委員会だとかオーディエンス投票にかけて表彰までもっていく。我々が『フェーズフリー』だと思えるものを見つけ、しっかりと評価していくということですね。

―― 岩田さん
そうですね。だから裏付けとか、先方がきちんとPRに使えるような建付けをつくっておかないといけません。訳の分からない団体がなんか言ってきたけど、ありがた迷惑だみたいに思われても困るので……(笑)。

―― 佐藤
そうですよね。フェーズフリー協会はまだまだ知られていない団体です。訳の分からない団体が勝手に表彰したって、たしかにありがた迷惑の領域ですよね。それを担保してくださっているのが、審査委員の先生方になるわけですね。

―― 岩田さん
そうですよね。多彩な分野の先生方がいらっしゃる。一人ひとりが立場を超えてよりパワフルな取組み、より実効性の高いことをどう仕掛けてくださるか、といったことで、さらに充実していく気がします。

―― 佐藤
審査委員の皆さまがより活発に活動できるような仕組みや審査のあり方などについても、今後より広い視野で考えていく必要がありますね。

―― 岩田さん
そうかもしれません。

―― 佐藤
世の中に伝わりやすくて影響力のある商品やサービス、要は企業が具体的に世の中に実装しているものによって、『フェーズフリー』を社会に伝えていく。そのための審査のあり方を、あまり深くアカデミックで専門的な領域にとどめずに、世の中に影響があってスケールが大きいものをきちんと選んでいけるようにすべきだというのは、岩田さんと話していて改めて実感しました。

―― 岩田さん
社会的にも企業として社会貢献とかSDGs、持続性など、意識が非常に高まり専門の部門もあるので、そういった企業や世の中に影響の大きい人たちを巻き込むとか、気鋭の起業家や社会貢献型ベンチャー的な人たち、また若い世代とかも含めてコアメンバーとして仲間に引き入れていくと、もっとパワフルになってくるかもしれない。

―― 佐藤
コアメンバーに入れるっていうのはどういうことですか?

―― 岩田さん
『フェーズフリー』を普及させようという審査委員であったり、または当事者意識を企業に持ってもらって、そこで学術的なアプローチとはまた違った、世の中に『フェーズフリー』を普及させることを考え実行する部会のようなイメージです。そこに若くて発信力ある若手のベンチャー経営者を加えておくと、ビジネスサイドから見ても、とても面白くなる。

―― 佐藤
なるほど!フェーズフリーアワードにおいて我々実行委員会ができることって、その仕組みをつくっていくとか、人事ぐらいしかできないわけですよね。その仕組みや審査委員のあり方みたいなものを、もっと深くきちんと吟味して推進していく必要がありますね。

―― 岩田さん
いろいろ言いましたが、『フェーズフリー』もフェーズフリーアワードも、爽やかに、ゆるやかに、進んでいけば良いと思いますよ。

―― 佐藤
爽やかに、ゆるやかに、いい言葉です。少しずつ少しずつ、岩田さんが示唆してくださっている大きなうねりを生み出す、そのために企業を巻き込んでいく、そしてもっと商業的という視点を入れてもいいのではないか。そういったところも含めて、これからも確実に進めてまいりたいと思います。ぜひ今後ともご指導いただければと思います。

―― 岩田さん
佐藤さんの情熱が変わらない限り、応援いたしますから。

―― 佐藤
ありがとうございます。

事後対談

フェーズフリーアワード2022と事後対談を終えた岩田さん(右)と佐藤

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