防災アナウンサー/環境省アンバサダー
奥村 奈津美さん
(2025.5 実施)
写真・文:西原 真志

フェーズフリーアワードで審査委員を務める奥村奈津美さん
地球環境への取り組みも、重要な防災の一つ
―― 佐藤
奥村さんの著書『大切な家族を守る「おうち防災」』が刊行されましたが、2021年に出版した『子どもの命と未来を守る! 「防災」新常識 パパ、ママができる!!水害・地震への備え』も改訂版が出たのですね。
―― 奥村さん
ありがとうございます。前著は4年前のもので、能登半島地震や頻発している水害などのデータが入っていませんでしたので、最新版のデータにアップデートしながら原子力防災など新たな情報も追加しました。
―― 佐藤
地震や水害に加えて、放射能被害にも触れているのですね。
―― 奥村さん
はい。それから、気候変動対策に触れているのも拙著の特徴です。
―― 佐藤
奥村さんは環境省アンバサダーで、「森里川海プロジェクト」にも携わっていらっしゃる。防災と環境は、奥村さんの大きなキーワードですね。
―― 奥村さん
そうです。「地球に優しい暮らしが究極の防災」と言っていますが、やはりいくら防災に取り組んでも、地球環境が悪化してしまうと災害が激甚化してしまいます。だから温暖化対策など、地球環境への取り組みも防災の一つととらえているんです。
―― 佐藤
なるほど。ハザード、つまり危機の方を防いでいくのですね。
―― 奥村さん
例えば水害を見ても、森林管理が行き届いていないと土砂災害もひどくなります。だから里山を守るとか、生物多様性や自然共生を後押しするとか、山や森を管理し守るという点にも力を注いでいきたいと思っているんです。
―― 佐藤
奥村さんの肩書きで見ると2つに分かれていますが、でもそれは別々の行動ではなくて、安心して暮らすための一つのものなのですね。
―― 奥村さん
同時に取り組まないと、命は守れないし、未来も残せないと思っているんです。
―― 佐藤
防災を考えたときに、環境という側面に注目したきっかけがあったのでしょうか?
―― 奥村さん
最初のきっかけは広島土砂災害ですね、2014年です。その後も日本中で豪雨による災害が起きていて、現場に行くとおびただしい量の流木が、建物などに突き刺さっているんです。木が凶器になってしまっている感じです。以前はまだ管理を徹底すれば土砂災害をある程度防ぐことができましたが、近年は雨の降り方も変わり、ハードの対策ではカバーしきれない災害になってしまっています。そういった経験がいろいろな場所で何度もあって、「もっと気候変動や地球環境そのものに目を向けなくては」と思いました。
―― 佐藤
私たちの暮らしが地球環境に良いものであれば、地球環境への負荷も少なく、気候変動によるハザードを発生させにくくできる。大きな視野で見ると、防災と環境はつながっているということですね。それって『フェーズフリー』の本質でもあるなと思いました。
―― 奥村さん
ありがとうございます。うまくまとめていただきました(笑)。おっしゃるとおり、『フェーズフリー』ですよね。

奥村さんの印象に残るフェーズフリーアワード受賞/入選対象をお話しいただきました
あらゆることが自分の未来につながっていく
―― 佐藤
先ほどの奥村さんの著書のお話に戻りますが、4年前の情報からアップデートして何か感じたことはありましたか?
―― 奥村さん
悲しかったです。
―― 佐藤
それはどうしてですか?
―― 奥村さん
この4年間、⽔害は毎年発⽣していますし、昨年は能登半島地震、その後の豪⾬災害もありました。災害が起きなければ、4年前のデータ・情報のままでよかったわけです。ところが起き続けているので、すべてをアップデートしなくてはいけない、という悲しさがありました。
―― 佐藤
この4年間で、見直さなくてはならないこともとても多く、そこに気づく作業になったのですね。
―― 奥村さん
そうです。防災が進んでいるように思っていたのに、定点観測ではありませんけれど掲載している全データを見直すと、少子高齢化など社会がより脆弱になったり、地球環境が厳しい状況になっているなど、これまでの取り組みではまだまだ足りないことが多いのだと実感しました。
―― 佐藤
また4年後にデータを見直したら、今回と同じような感想になってしまうのでしょうか。
―― 奥村さん
避けたいですけれど、そうなのかもしれませんね……。
―― 佐藤
非常時のできごとは事前にすべてを想定するのはもちろん不可能で、無限のシナリオで何かが起こってしまいます。だからそこにはフェーズフリー・レシピとか、フェーズフリー・モビリティとか、あらゆることの付加価値になって無限のシナリオに応えられる『フェーズフリー』が必要になると思うんです。一つひとつの力は微々たるものでも、つながって広がっていけば大きな力になります。
―― 奥村さん
そのとおりです。自分と関係ないことは何もなくて、あらゆることが自分の未来につながっていきます。身のまわりのいろいろなものが『フェーズフリー』になったら、大きな力になっていきますね。
―― 佐藤
そう、つながっていくと、予想もつかない大きな力になっていくんです。そんな思いもあって、今回の奥村さんとの対談では、過去のフェーズフリーアワードの受賞/入選対象で印象に残る3点を選んでいただきました。一つひとつの個々の力を、大きな力につなぎたいと思っています。
―― 奥村さん
一つ目は、最も日常時と非常時の "つながり" が表現されていると感じる『停電しても消えない電球いつでもランプ tsuita(※1:第4回入選対象)』です。
―― 佐藤
どのあたりに、つながりを感じますか?
―― 奥村さん
どの家にもオフィスにも電球は必ずあって、それが日常時と非常時のフェーズを超えて機能するという『フェーズフリー』になっているって本当にすばらしいことです。まずは暮らしの中に採り入れやすく、『フェーズフリー』をはじめるきっかけになりやすいプロダクトだと思いました。
―― 佐藤
たしかにどこにも照明器具はありますね。それが日常の暮らしで機能することはもちろん、停電時にも消えずに点灯していてくれるのは安心にも安全にもつながります。『フェーズフリー』をはじめるのに、たしかにぴったりですね。
―― 奥村さん
そう思います。
―― 佐藤
実は先ほど美術館で『フェーズフリー』に関する対談をしてきたのですが、そこでも感じていたんです。美術館は作品を守るために窓が少ないのですが、そこで停電になってしまうと皆さん不安ですよね。非常灯はありますが、美術館とか博物館などの電球がすべて、tsuitaだったら安心だなって。
―― 奥村さん
本当にそうですよ。tsuitaがあれば、停電時にも空間そのものが暗くなりませんからね。最近では声に反応する電灯もありますが、さらに進化していろいろな機能が増えたらおもしろいですね。
―― 佐藤
誘導にも使えるとか、いろいろなアイデアが考えられますね。続いて挙げていただいたのは『ラップ式トイレ「ラップポン」(※2:第4回受賞対象)』ですが、そのポイントも教えてください。
―― 奥村さん
これはもう、『フェーズフリー』の究極形ですよ。
※1 停電しても消えない電球いつでもランプtsuita
https://aw2024.phasefree.net/entry_work/pfaw2024b017/
※2 ラップ式トイレ ラップポン
https://aw2024.phasefree.net/award/pfaw2024b037/

対談はフェーズフリー協会の会議室でおこなわれました
“みんなで助かる”可能性をつなげ広げていきたい
―― 奥村さん
これから高齢化社会がまちがいなく進むなか、部屋を移動しなくても用を足すことができて、しかも衛生面でも安心という、日常時においても活用しやすいところは本当にすごいですよね。事故対策やヒートショック対策など、あらゆるリスクの削減につながります。それは介護を受ける側だけではなくて、介護をする側の負担を減らすことにも大きく貢献しています。臭いや菌を含む汚物に触れずして処理できるので、災害時にも本当に助かりますし、これ以上のトイレはないかもしれません。
―― 佐藤
いろいろな気づきにつながるプロダクトですよね。介護の現場はもちろん、介護を受ける方のQOLを上げる提案をして実現できています。災害時には下水の問題はとても大きいので、そこを解決する存在にもなっています。
―― 奥村さん
尿瓶やオムツなどもありますが、やはり臭いや雑菌などの問題は拭いきれません。ラップポンだと、座ることさえできれば熱圧着で臭いも菌も汚物も封じ込めるので、水洗トイレと同じように使えるところが良いですよね。最強です。
―― 佐藤
トイレを新しく新設するのはコストも時間もかかりますが、ラップポンは使いやすい場所に置けばそこがトイレになる点も魅力です。
―― 奥村さん
ライフラインならぬ、"ライフポイント" と呼んでいるのですが、非常時にはいろいろなライフポイントがあって、トイレは本当に重要なライフポイントです。その部分に高いレベルで対応できているところにとても共感しています。
―― 佐藤
自分も同感です。
―― 奥村さん
最後、三つ目に選んだのが、『小清水町防災拠点型複合庁舎「ワタシノ」(※3:第4回受賞対象)』です。避難所のスタンダードとして体育館がありますが、新しいスタンダードとしてワタシノが誕生したと思っています。このように従来のスタンダードを、どんどん変えていったらいいなと感じているんです。この小清水町の庁舎の事例を、いろいろな自治体に採り入れてもらいたいですよね。
―― 佐藤
『フェーズフリー』のコンセプトで新しい庁舎をつくるという目標で、非常時の対応という目線だけではなく、地域の人が集うふだんの賑わいをどう生みだすかを重要視しました。自分たちの親しみのある場が、非常時には安心・安全を守る場所になることを、どう創出して浸透させていくかがポイントになりましたね。
―― 奥村さん
なるほど。
―― 佐藤
賑わいを求めたときによくあるのが、イベントホールや集会所といった特別な空間をつくること。でも過疎地で賑わいを生みだすのは、特別な空間づくりでは難しいんですね。だから日常的に地域の人が足を運び利用することができる、コインランドリーやカフェ、ジムなどを庁舎の中に組み入れたのです。非常時にも、この場所で日常を送ることができるという、『フェーズフリー』のコンセプトでワタシノはできています。
―― 奥村さん
過去に、小清水町は被災しているのでしょうか?
―― 佐藤
大きな被災はないですね。だからそこがまたすごいことですよね。奥村さんが前回の対談でおっしゃっていた、"みんなで助かる" というキーワードを体現していると感じています。
―― 奥村さん
日常時の賑わいもあって非常時には防災拠点になる、そのような場所が各自治体に広がっていったら、とても大きな防災の力になりますね。"みんなで助かる" の可能性が、どんどん広がっていきます。
―― 佐藤
そう、大きな力につながっていきますね。先ほどの話に戻りますが、一つひとつの力は微々たるものでも、つながって広がっていったらそれは大きな効果を生みだします。フェーズフリーアワードもそういったことを提示していく場ですので、引き続き奥村さんにも力を貸していただけたらと思います。
―― 奥村さん
フェーズフリーアワードも、そういった一つひとつをつないで大きくしていく、大切な場ですね。改めてそう思いました。
―― 佐藤
そうです。よろしくお願いします。
―― 奥村さん
こちらこそ、引き続きよろしくお願いします。
※3 小清水町防災拠点型複合庁舎「ワタシノ」
https://aw2024.phasefree.net/award/pfaw2024b008/

対談を終え笑顔で握手を交わす奥村さん(右)と佐藤
この記事をシェア



