『フェーズフリー』とは、“安心感”である

フェーズフリーアワード2025 実行委員長
株式会社フォース・マーケティングアンドマネージメント 代表取締役CEO

岩田 彰一郎さん

2022年開催の第2回フェーズフリーアワードから実行委員長を務める岩田彰一郞さん(以下:岩田さん)と、フェーズフリー協会代表理事の佐藤唯行(以下:佐藤)による対談をおこないました。マーケティングや経営のエキスパートとして起業家などの後進の育成や、社会課題の解決に向けた活動にも注力する岩田さんに、これまでのフェーズフリーアワードで印象に残る受賞対象などについてお話しいただきました。
(2025.4 実施)

写真・文:西原 真志

岩田さんとの対談-1

フェーズフリーアワードで実行委員長を務める岩田彰一郞さん

いつも使っているものを、もしもにも役立てるアイデアが重要

―― 佐藤
岩田さんに第2回目から実行委員長を務めていただいているフェーズフリーアワードも、今年で5回目を迎えました。

―― 岩田さん
年々盛り上がってきている実感がありますね。

―― 佐藤
ありがとうございます。フェーズフリーアワードでは、毎回キャッチコピーを設定しています。これまでを超えていこうという想いを込めた、第1回の『Beyond It! ここから、はじまる。』という言葉からスタートしました。今年の第5回は『「いつも」を良くする。「もしも」も良くする。「えがお」がつながる』になりました。

―― 岩田さん
"つながり" が重要なテーマになっていますね。

―― 佐藤
そうです。フェーズフリーアワードで人と人に限らず、企業やプロジェクトなどさまざまなつながりが生まれています。岩田さんとの対談も4回目となり、今回は過去とのつながりを今一度考えて何か相乗効果がもたらされたら良いなと、これまでのフェーズフリーアワードで印象に残る受賞/入選対象を三つピックアップいただきました。早速ですがご紹介いただけますか。

―― 岩田さん
まず挙げるのは『東立石保育園(※1:第2回入選対象)』です。日常時は家であり公園であり学び舎であり、非常時には地域の拠り所にもなる保育園です。

―― 佐藤
特にどのあたりが評価のポイントですか?

―― 岩田さん
近年でも能登地震をはじめ大小さまざまな災害が至る所で発生し、その度に無力感のようなものを感じてしまっています。そういったなかで、地域の拠点といいますか、パブリックに大きな役に立つものに視線が向いていて、まずは子どもたちを守りたいという想いで最初に選びました。

―― 佐藤
なるほど。

―― 岩田さん
この東立石保育園は1階から屋上への動線が遮られることなくつながっていて、走り回れる日常的な楽しさもありつつ、屋上には地域の人も含め300名が救助を待てる場があります。海抜0m地帯に立地するからこそのアイデアが、とても生かされた建物だと思います。

―― 佐藤
子どもたちが思い切り遊んでいる広い階段や屋上が、実は非常時には自分たちを守ってくれる場になる。"いつも" と "もしも"、両方のQOLを上げる、まさに『フェーズフリー』ですね。

―― 岩田さん
そうですよね。子どもたちが日々過ごす保育園が少しでも安心な場になっているというのは、本当に大事なことだと感じます。

―― 佐藤
同感です。

―― 岩田さん
二つ目に挙げるのは、『アイラップ(※2:第4回受賞対象)』です。

―― 佐藤
フェーズフリーアワードの審査委員の皆さんにも、今回の「印象に残る受賞対象」企画で多く挙げていただきました。

―― 岩田さん
そうでしょうね。日常でも便利ですし、いざというときにも本当に助かる製品です。(岩田さんが創業し代表を務めた)アスクルでは、佐藤さんにもご協力いただきましたが、ふだん身近にあるガムテープやダンボールなどを災害時にいろいろ役立てられる知識をまとめた冊子をつくりました。何か特別な防災用品ではなく、いつも便利に使っているものを、有事の際にも何かしら役立てて身の安全を守るというのは、本当に重要だと思っています。

―― 佐藤
おっしゃるとおりです。アイラップは『フェーズフリー』をコンセプトにつくられたわけではなく、40年ほど前から親しまれているプロダクトです。最近になって消費者側から「アイラップは『フェーズフリー』だ!」とSNSなどで発信されるようになって、いろいろな活用法が生みだされ情報交換されるようになりました。『フェーズフリー』という言葉が、人々のインスピレーションや気づきを育んでいったユニークな事例です。

※1 東立石保育園
https://aw2022.phasefree.net/entry_work/pfaw2022b024/
※2 アイラップ
https://aw2024.phasefree.net/award/pfaw2024b001/

岩田さんとの対談-2

岩田さんの印象に残るフェーズフリーアワード受賞/入選対象をお話しいただきました

暮らしの知恵が自然に高まる『フェーズフリー』

―― 岩田さん
佐藤さんの言うとおり、『フェーズフリー』という言葉から、いろいろなアイデアが広がっていきましたね。私は『フェーズフリー』には、二つの視点が大事だと思っています。一つは、社会性が高くて効果が大きいこと。もう一つがアイラップのように、ふだん便利だから使っているものの中に、非常時に人々を助けたり守るような可能性があること。些細なものでいいのです。

―― 佐藤
そうですね。日常的に使用している身のまわりのモノやサービスなどに、気がつけば『フェーズフリー』というものは多くあります。そう見てみると、自分たちの生活のいろいろなものが『フェーズフリー』に見えてきます。

―― 岩田さん
そう。その象徴的なものがアイラップだと思ったのですね。

―― 佐藤
アイラップを利用するときに、『フェーズフリー』という視点を加えて活用してみると、途端に非常時の暮らしが描けるようになります。特別な対策ではないですが、非常時の生活が便利になるという考えがインプットされるだけで、特別な備えをしなくても何かができるようになるというのはすごく大切な効果です。

―― 岩田さん
サランラップなど他の食用品ラップフィルムも、何かを包むだけでなくお皿の代わりなど多様な活用が可能です。このようなときにこのように使うことができる、というような知恵が『フェーズフリー』とともに広がることが、とても大事な意味ですね。

―― 佐藤
本当にそうです。

―― 岩田さん
その意味で、ふだん身近に活用しているものが非常時にも何かしらの形で役立てられるという、安心・安全に暮らすための知恵が自然に高まる活動そのものが『フェーズフリー』でもあると思います。

―― 佐藤
アイラップは、『フェーズフリー』な使い方や、『フェーズフリー』な暮らしを描くきっかけとなりました。市民のパワーといいますか、生活者の気づきの連鎖につながる製品だと改めて思いました。そういった広がりそのものも、まさに『フェーズフリー』ですね。

―― 岩田さん
そう思います。そして今回挙げる三つ目は、入選の『停電しても消えない電球いつでもランプ tsuita(※3:第4回入選対象)』です。

―― 佐藤
停電しても、一定時間消えない電球ですね。

―― 岩田さん
そう。私は自宅で、暗いときに自動で点灯するランプを使っています。足もとを照らすのにもちろん便利ですし、何よりも安心につながります。目に見えて安心や安全に直結するという。

―― 佐藤
安心というのは、とても重要ですね。

―― 岩田さん
ふだん夜中に目が覚めて動いたら明かりが自動で点けば安心ですし、tsuitaなら停電中でもしばらく明るさは確保してくれるので、さらに安心感があります。そういった "安心感" というのも、『フェーズフリー』の大きなキーワードだと思っています。

―― 佐藤
暗闇というのは、日常時もですが、特に非常時には恐怖にも危険にもつながります。明るいというのは、とても重要ですよね。

―― 岩田さん
パニックになることも防げますし、何かお守りのような存在ですよね。非常時の明かりは特に不可欠です。

―― 佐藤
すでに起きている災害に限らず、これからいつどんな災害が発生するかわかりません。そういった不安を感じるなかでも、tsuitaのような製品や、また『フェーズフリー』の提案が広がっていけば、安心や安全をもたらすことができます。

―― 岩田さん
そう、安心感ね。『フェーズフリー』は、安心感につながるのですね。

※3 停電しても消えない電球いつでもランプtsuita
https://aw2024.phasefree.net/entry_work/pfaw2024b017/

岩田さんとの対談-3

対談はフェーズフリー協会の会議室でおこなわれました

『フェーズフリー』を次なるステージへ

―― 佐藤
印象に残る三つの対象を挙げていただきありがとうございました。どれも『フェーズフリー』を象徴するものばかりでした。ここで岩田さんにご相談したいのですが、最近は『フェーズフリー』という言葉が広がり、"フェーズフリーウォッシュ" といいますか、本来はそうでないのにもかかわらず『フェーズフリー』を謳うモノ・コトが多く見受けられるようになっています。その点について、岩田さんはどう思われますか?

―― 岩田さん
一つ言えるのは、これまで10年を超えて佐藤さんや皆さんが活動を重ねてきて、『フェーズフリー』が市民権を得始めたということです。まさに努力の賜物ですよ。悪気の有無はわかりませんが、偽物といいますか、"フェーズフリーウォッシュ" が出るくらい、世の中に浸透してきている証左だと思います。

―― 佐藤
アスクルさんをはじめ、これまでは『フェーズフリー』というものを理解し考えて丁寧に展開していただくことがほとんどでしたが、現在はマスマーケット(大量消費市場)に移行しつつあり、単純に言葉として『フェーズフリー』が使われてしまうことが増えているように感じるんです。

―― 岩田さん
子どもが育ってきて、意に添わなくなることが増えている段階というのでしょうか。その中で「君の使命はこれだよ」ときちんと指し示してあげることも重要ですが、教条的にこうあるべきとか、学問的にこうだと言い過ぎるのも、あまり理想的ではないですよね。今は成長の中の一つの節目であって、まさにフェーズフリーアワードは "これが『フェーズフリー』です" と示していくためのものなので、引き続き丁寧に積み重ねていく必要があるのでしょうね。

―― 佐藤
そうですね。マーケティングの大家である岩田さんから見て、これから『フェーズフリー』はどうあるべきかを、今一度教えていただけますか?

―― 岩田さん
近年ではSDGsが近い事例だと思うのですが、17の方針があって世界中に浸透しました。『フェーズフリー』もより普遍的にわかりやすく伝える工夫などあってもいいですね。誰もが参加しやすくなる指針のような。

―― 佐藤
『フェーズフリー』は5原則として、「常活性」「日常性」「直感性」「触発性」「普及性」を掲げています。割と明確だと思うのですが、伝わりにくい面もあるのでしょうね。やはりこれまでも何度も岩田さんに言われている、"右脳のマーケティング" といいますか、感性に直接的に響くような発信をしていく必要があるのでしょう。

―― 岩田さん
そうそう。積極的に一言一句を読んで解釈してアクションにつないで……という人はなかなか存在しません。できるだけシンプルにしていかなくては。

―― 佐藤
そうですね。私たち生活者は日々、直感的に判断していろいろなことを選択しています。その意味で『フェーズフリー』も右脳に響かせていく必要がありますね。

―― 岩田さん
それから協議会というか、コンソーシアムのような存在をつくることも効果的だと思います。私はアスクル時代に、さまざまな企業やメーカーと協働するマーケティング・コンソーシアムに取り組んだのですが、共感や賛同も強化され、Win-Winの関係が広がりました。

―― 佐藤
なるほど。これまで『フェーズフリー』は草の根運動ばかりでしたので、『フェーズフリー』に共感いただける人や企業と手を取り合って、枠組みのようなものを構築することも必要ですね。

―― 岩田さん
言葉だけを一人歩きさせるのではなく、大義といいますか、改めて「 "いつも" も "もしも" も良くする」ことをきちっと共有する必要があります。行政や企業など共感してくれる存在は多くありますので、社会や人々に啓発していくというよりも、そろそろそういった活動にも力を入れるべきフェーズに来ているのでしょう。

―― 佐藤
そうですね。そういったことが『フェーズフリー』を新たなステージへと押し上げていくのですね。これまでの活動とは違った、また新たな展開になりますね。アドバイスをいただきながら進めていこうと思います。

―― 岩田さん
ぜひがんばってください。

―― 佐藤
ありがとうございます。フェーズフリーアワードも含め、引き続きよろしくお願いいたします。

―― 岩田さん
こちらこそよろしくお願いします。

岩田さんとの対談-4

対談を終え握手を交わす岩田さん(左)と佐藤

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