『フェーズフリー』に必要なのは“右脳マーケティング”

株式会社フォース・マーケティングアンドマネージメント

岩田 彰一郎さん

2022年9月に開催予定の、第2回目となる『フェーズフリーアワード』の実行委員長に就任した岩田彰一郞さん(以下:岩田さん)。文具大手のプラス株式会社に在籍していた際の1992年に事業として立ち上げた『アスクル』を、日本を代表する企業へと育て上げ、現在は株式会社フォース・マーケティングアンドマネージメントを設立し、起業家などの後進を育てるべく日々活動されています。マーケティングや経営のエキスパートである岩田さんと、フェーズフリー協会代表理事の佐藤唯行(以下:佐藤)による、『フェーズフリー』に関する対談を開催しました。

※対談はマスクを装着し行なっておりますが、撮影用に一時外している場合がございます。

写真・文:西原 真志

岩田さんとの対談-1

『フェーズフリーアワード2022』実行委員長に就任した岩田彰一郎さん

“直接”というスタイルを取り入れて『アスクル』を発足

―― 佐藤
『フェーズフリーアワード』の実行委員長を引き受けていただき本当に感謝しています。岩田さんというと、今や多くの企業のインフラともなっている『アスクル』を立ち上げ大きく育ててきたという、マーケティングや経営のスペシャリストという印象を強く持っています。簡単には語れないかと思いますが、岩田さんの歩みをご紹介いただけますか?

―― 岩田さん
そうですね。大学時代にマーケティングを勉強したのですが、最初に開いたマーケティングの教科書のはじめの一つのセンテンスに“Consumer is king”という言葉が明記されていました。ちょうど二十歳のときかな。これからマーケティングに携わっていきたいということで、いま振り返ってみると、その教科書に記されていた“Consumer is king”というワードが自分の原点になったように思います。
そして卒業後はライオン油脂(株)(現:ライオン(株))に入社し、営業を経験した後に商品開発に携わり、主に女性用のヘアケア等を担当しました。

―― 佐藤
商品開発を行っていたのですね。

―― 岩田さん
世の中で起こっている大きな変化の中で、これからマスに大きくなっていくところにフォーカスしてビジネスをしたいという思いが当時からありました。ライオンには自由にチャレンジさせてくれる環境があり、実際にいくつかの商品を生み出すことができ、それは非常に楽しいものづくりの時代でした。最初にマーケティングを学び、その後に商品開発に携われたのが、自分のものづくりの原点です。

―― 佐藤
そこから『アスクル』の立ち上げはどのような経緯で?

―― 岩田さん
友人に声をかけてもらい、面白みを知った商品開発というものを今度はプラス株式会社という文具などの分野で行ってみようと思い、35歳のときに転職しました。
そこから、良いデザインの新しい商品群を数多く生み出していくのですが、なかなか売れない…。消費者調査をしたら圧倒的に評価が高いのに、それが売れないということが起こりました。

―― 佐藤
その原因は判明したのですか?

―― 岩田さん
はい、要は全国のお店などに、商品を置いてもらっていなかったんですよ。なぜ置かれないのかといえば、当時の日本では、いわゆる流通をきちっと押さえた大企業が勝ち続けるみたいな構造があり、その中で文房具業界には強力なガリバー企業が君臨していて、同じ定価の商品だったらそちらを買う方がいいという風潮がありました。だからユニークな商品だったら扱うけど、ベーシックな商品だったら我々の商品でなく大手の商品を扱うと。

―― 佐藤
なるほど。

―― 岩田さん
そういった大きな壁にぶつかって、それであれば直接お客様に売ろうと。そういうところから、『アスクル』の構想の原点が生まれて来たんですね。直接消費者に届ける新しいバリューチェーンを具現化して、社会最適と呼ぶのですけれども、そのようなビジネスモデルをつくり、最初はプラスの商品を販売することを目的にしていました。
事務用品においては圧倒的にBtoB市場が大きいことに加えて、日本の95%を占める従業員が30人以下の事業所というのは、自分たちで事務用品を買いに行って定価で購入し、そして自分で持って帰ってくるようなスタイルがほとんどでした。この人たちに、大企業以上のサービスを提供しようというのが『アスクル』のスタートです。

―― 佐藤
良い商品が売れるとは限らないと。要はそこに流通など多様な要因が絡んでいて、消費者に評価されるのになぜか売れないという矛盾が生じる。でもそれは、そもそもお客様の目に触れていないからなのですね。だとすればお客様に直接届けようと考え、それが『アスクル』の始まりとなった。面白いですね。

―― 岩田さん
マーケッターとして、お客様の目にも手にも触れないで商品が売れないというのは、まあ死んでも死にきれないと(笑)。なので、お客様に直接伝える手段として、カタログという方法や商品がすぐに届くなどのサービスを付加して、少しでも多くのお客様に繋がるために、“直接”というのが正しいスタイルだと感じたんです。

『フェーズフリー』に必要なのは“直感性”

岩田さんとの対談-2

岩田さんはマーケティングやこれまでの活動などを語ってくださいました

―― 佐藤
『アスクル』さんの話だけでも対談が終わってしまいそうですが(笑)、ここで一つ質問させてください。私は工学部出身ということもあるせいか、いまいちマーケティングという言葉をきちんと理解できていないと思っていまして。マーケティングとは、一体何なのでしょうか?

―― 岩田さん
マーケティングというのは、教科書で習うのは、どう工夫してお客様の信頼を勝ち取るか、みたいな競争ですよね。結局“Consumer is king”って最初に言ったのは、やはりお客様が最初にすべてを決める権利がある。先ほどの流通の話で言えば、お客様が利用するという時にしっかりと手に入るとか、またはコマーシャルで知って使ってみたいと思うとか、要するにお客様である消費者に、いかに理解してもらって共感してもらって買ってもらえるかみたいな、マーケティングってそういったサイクルですよね。

―― 佐藤
なるほど。プロダクトや流通などありとあらゆる手段を使って、いかにお客さんに良い価値を届けるかというのがマーケティング。

―― 岩田さん
現在の“winner takes all型”のある種弱肉強食な資本主義に対して、win-win-winの三方良し的な共存とか、自然の良さを味わう・感じるというような日本的な価値観が次の時代に向かって模索されてきています。そのような中で、正しい人類のあり方とか企業のあり方が、考え直される時代にきている気がしています。

―― 佐藤
社会的合理性と経営的合理性というのは、イコールになるものなのでしょうか?

―― 岩田さん
イコールだと思いますね。全部俺のものだみたいな封建的なモデルだったら、結局どこかで反発が起きてしまう。改めてそれぞれの役割を見直したときに、一緒にできることを理解しあえたら、共存共栄が可能になる。
絶えず人類が経済成長することが、本当に人類の未来とか地球環境とか、自然資源にとって良いことなのか。ビジネスをしている人にとって、無限の成長というのは非常に重要なファクターだった訳ですが、地球資源の限界が見えてきたり環境汚染や気温の状況など、本当にこのまま同じ価値観で成長を求めていっていいのかと考えざるを得ない時代だと思います。

―― 佐藤
岩田さんは『アスクル』を卒業されて、現在は株式会社フォース・マーケティングアンドマネージメントを設立し活動されていますよね。具体的にどのようなことをされているのですか?

―― 岩田さん
一つは志の高いベンチャーの育成です。さまざまな社会課題を解決できる知恵と情熱を持った若者がたくさん存在しているんですよね。『岩田ワクチン会』と呼んでいるのですが、そういうベンチャーに対して経営の先輩としてアドバイスするなどのサポートを行なっています。
ベンチャーって、起業するのに100個ぐらい落とし穴にボコボコはまっちゃうわけです。組織が大きくなっていけば組織の持つ多様な課題とか、『アスクル』も体験した予期せぬ出来事が起こってどうするかとか、そういう様々なことに対する考え方や手段のようなものを、若いベンチャーの人たちにアドバイスしたりみんなで勉強したり、というのを通じて資金を含めて育成し応援しています。

―― 佐藤
『岩田ワクチン会』に入る条件みたいなものってあるのですか。

―― 岩田さん
高い志を持っていること。

―― 佐藤
それが岩田さんの会社の名称である“フォース”に繋がっている?

―― 岩田さん
“フォース”というのは、スター・ウォーズの最初の段階で“理の力”って訳されたものです。まだベンチャーはロバにまたがって闘っているみたいなものですけれども、でもやっぱりみんなが楽しい方向に向かって、意識を持っていくと社会全体が良くなる。そういった、次のジェダイを育てていきたいですね。

―― 佐藤
なるほどですね。“フォース”って、岩田さんがおっしゃった“理力(りりょく)”。岩田さんの解釈によると、実現したいと思う信念みたいなことですね。
我々が推進している『フェーズフリー』という活動において実現したい信念は何かというと、「繰り返し続ける災害っていうものを解決したい」という信念なんですよね。ただこれって、すごく解決するのが難しい。現在も災害や戦争などで苦しみ傷つき、亡くなっていく人たちがすごく多いですよね。あれを何とか解決したいというのが、この『フェーズフリー』という活動の“フォース”だと思っているのですけれど。岩田さんが最初にこの『フェーズフリー』という言葉と出会った時って、どのような印象を持ちましたか?

―― 岩田さん
コンセプトには共感しましたが、『フェーズフリー』という言葉自体はなじみがないので、ストンと落ちるには何かちょっと、一旦翻訳のような作業が脳の中で必要でした。だから、そのまま行動にまで落ちるような、その辺の言葉づくりが非常に重要だなと思いますね。まだみんな頭の中で回路が結ばれてないと思うので、それを繋げてあげることが必要と感じています。

―― 佐藤
そこは岩田さんに教えてもらいたいというか、ご意見いただきたいのですが。先ほどの “Consumer is king”というマーケティングの真骨頂みたいな言葉からすると、私も『フェーズフリー』というのは“Consumer is king”だと思っているんですよ。要はコンシューマーの安心・安全まで叶えてしまおうという。
ただ、当のコンシューマーは非常時に何が必要なのかあまり気づいていない。ここがすごく難しい。一般的には、非常時に自分に何が必要なのかということはなかなか想像できない。でも『フェーズフリー』は、お客さんが必ずしも欲しいと思ってないもの、欲しいと気づいてないものを、お客さんに成り代わって先に提案して、受け取ったお客さんに気づいてもらう、という商品群・サービスのことなんですよね。

―― 岩田さん
結構そこは難しくて、“インテル入ってる”みたいなものでね。

―― 佐藤
(笑)

―― 岩田さん
トクホ(特定保健用食品)はトクホのマークがありますが、『フェーズフリー』でもマークが付いていて、同じようなものが並んでいたらこっちを買おうと、お客様に認知してもらえたらいいなとも感じます。「いざという時に安心なフェーズフリー」みたいなマークがあちこちに付いている。そんなアイコンとしての認知が自然に高まるといいなと。
つまり消費者って、左脳的に考えて購入するのではなく、右脳型でパッと見てこれいいねと判断する。左脳的な思考の脳でモノを選んでもらおうとすると、スーパーで何十品か買うのに一日かかっても買えないことになってしまうんです。

―― 佐藤
直感性が重要なのですね。今は『フェーズフリー』も、左脳的ということですね。“日常時も非常時も”と理屈で伝えている。だから消費者からすると、左脳で考えて判断しなきゃいけない。
フェーズフリー商品は多く誕生してきていますが、説明すれば納得してもらえるものの、まだ左脳の提案になってしまっているからお客様が直感的にパッと手に取れないっていうことですね。

―― 岩田さん
そうそう。買い物するときに基本的にはあまり左脳を使っていないので、そこを不意に止まってもらい、瞬間的にこっちが良いって思ってもらえる仕掛け、それがマーケティングです。

たくさんの人が集う『フェーズフリーアワード』を、さまざまな課題解決のきっかけに

岩田さんとの対談-3

対談はフェーズフリー協会の会議室で行われました

―― 岩田さん
右脳に働きかける、直感に働きかける仕掛けがどういう仕組みであっても必要ですよね。左脳だけで人は動かない、というところが大事なので。

―― 佐藤
『フェーズフリー認証』をスタートして良かったと思ったことがあったのですが、始める前は意外と個人も企業も『フェーズフリー』に参加しづらかったんですね。それはなぜかというと、『フェーズフリー』を自由に考えることが逆に自由度が高すぎて、何をどうしたらいいのか分かりにくかったんです。でも『フェーズフリー認証』という制度を始め評価基準を設けたときに、これは今回の『フェーズフリーアワード』の審査基準にもなっているのですが、提案する側はここを考慮すればいいんだ、これが満たされればいいんだ、みたいなことが理解しやすくなって、誰もが『フェーズフリー』に参加しやすくなったんです。

―― 岩田さん
その基準をどう設計していくかは、『フェーズフリー』の普及に必要ですね。しかし基準ばかりではなくて、単純にビジュアルがいい、格好いいねという右脳的な判断結果があって、後々知ったらそれが実は『フェーズフリー』だった、でもいいと思うんですよ。理屈で押し切るんじゃなくて、格好いいけど実は『フェーズフリー』。その理由は…これこれこうだからと、順番的にはそんな感じなのかなという気がする。

―― 佐藤
我々が共有する『フェーズフリー』という基軸や価値をどうやって維持していこうかと思ったときに、今回参画していただく『フェーズフリーアワード』という一つの試みが出てくるわけです。要は、フェーズフリー性が低いものに対して、フェーズフリーをうたわないでくださいとか、フェーズフリーではありませんと規制することはできない。でも『フェーズフリー』とは何ぞや、ということを社会にきちんと知らせることができれば明確な基軸ができて、なるほどこういうことかと認知・理解してもらえる。そういった手法で価値を維持していこうというのが、『フェーズフリーアワード』の意図なんです。

―― 岩田さん
応募作品から選ぶだけでなく、本人は気づいていないけれどこれは『フェーズフリー』だねというものを積極的に表彰するなども必要だと思いますよ。そういうど真ん中というか、次の新しい時代を切り拓く商品。『フェーズフリー』という概念はここからの時代、非常に重要になってくるので啓蒙していかなくてはいけないし、そういう要素が入っているものを本人は思ってなくても表彰する必要も出てくるのではないでしょうか。

―― 佐藤
確かに金・銀・銅賞を決めるだけでなく、我々も『フェーズフリー』と判断できるもの、あるいはそれが社会的な影響を与えそうなものを積極的に取り上げていく必要もあるのかもしれませんね。

―― 岩田さん
人を動かすっていうのは、大変だし難しいことなんですよね。佐藤さんがずっとおっしゃっていることは、すぐ利益になったり世の中が変わったりすることもないかもしれないけれど、言っていることは正論で大義があるんですよ。社会にとって必要だしそういう社会になればいいっていう大義の旗を掲げているから、その大義のもとに集まって応援したい気持ちだけですよね。これがブレていたり違うなと思ったら、自分も関わらなかったと思う。
現実の社会には課題がいっぱいあるから、たくさんの人たちと一緒に解決したり、その目標に向かう知恵を出す人が集まる。『フェーズフリーアワード』が、そういうきっかけになればいいなと思います。

―― 佐藤
『フェーズフリー』は、いますごく過渡期というか危ない時期なんです。急速に広がっていて、もしかしたら価値がブレてしまう、もしかしたら価値が違った方向に行ってしまうかもしれない。そのときにいかに正しく伝えていくのか、その中で岩田さんの言葉でいうとマーケティングを考えなくてはいけない。直感的に伝える右脳で考えるところと、企業などに対しての論理立てた左脳的なアプローチ、その両方が大切になる。そういった点が現時点の活動では足りていなくて、それが今回、私が岩田さんにお願いした理由です。これからも末永くご指導いただければと思います。

―― 岩田さん
こちらこそこれから宜しくお願い致します。

―― 佐藤
本日はありがとうございました!

岩田さんとの対談-4

約2時間にわたってマーケティングや『フェーズフリー』に関するお話を語っていただきました

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