株式会社 マウントフジアーキテクツスタジオ一級建築士事務所 主宰建築家
芝浦工業大学教授
原田 真宏さん
(2025.4 実施)
写真・文:西原 真志

フェーズフリーアワードで審査委員を務める原田真宏さん
"つながり" とか "ご縁" を、つむいでいく場が大切になる
―― 原田さん
今年のフェーズフリーアワードのテーマは「つながる」なんですね。
―― 佐藤
そうです。一つひとつの『フェーズフリー』なものは広がってきていますが、今度はそれらがつながって、さらに新しい価値が生まれてくるフェーズに来ています。『フェーズフリー』なものが、人とか、街につながって広がっていくようなイメージです。
―― 原田さん
なるほど。
―― 佐藤
前回の対談で、原田さんが手がけた「道の駅 ましこ」にお邪魔しました。今回は過去のフェーズフリーアワードの受賞/入選対象で、印象に残る三つを教えていただく企画にしました。前回原田さんが話してくださった『あっちとこっちをつくらない』というところにヒントがあって、これまで数多く生まれたフェーズフリーアワードの受賞対象においても、現在である "こっち" と、過去である "あっち" をつないで、改めて『フェーズフリー』とは何かを考える企画です。
―― 原田さん
三つと言われていましたけれど、五つになってしまいました(笑)。それでもいいですか?
―― 佐藤
それはうれしいです。いろいろ悩みましたか?
―― 原田さん
これまで佐藤さんと『フェーズフリー』についていろいろ話をしてきて今感じるのは、ある世界からある世界に革命的に切り替わるというよりは、オーバーレイしている(重なり合っている)状態。つまり、『フェーズフリー』は貨幣経済に乗ってはいるけれども、でもちょっとちがう、ダイレクトな喜びの交換ができる世界であるところに良さとか魅力があると思ったんです。ふだんは今この世界に生きているわけですけれど、もう一つの別の世界にも触れられているような状態がつくられることが、すごく喜びにつながるのだと感じたんですね。そんな視点で選んでいたら五つになりました。
―― 佐藤
たしかに、『フェーズフリー』ってふだんの暮らしを豊かにしているのはわかるけれど、それだけではなくて、もう一つ別の世界に対する提案もあるから、それがうれしさや喜びにつながるのかもしれませんね。
―― 原田さん
ふだん私たちは、「大きな社会」の中で暮らしています。貨幣経済とか資本主義とか、グローバリズムとか。そこで一つ目の受賞対象につながるのですが、『子ども食堂防災拠点化事業(※1:第3回受賞対象)』の充実感といいますか、小さな触れ合いとか、気配がわかるとか、顔が見えるとか、一緒にご飯を食べて楽しいとか、そんな「小さな社会」に参加できているという喜びってすごくあるなと思うんです。
―― 佐藤
ありますね。
―― 原田さん
子ども食堂は誰でも興味を持てますし、非常時はもちろんですが、そもそも日常を豊かにする価値が高いですよね。自分の身体的に把握できる範囲の世界が持っている豊かさを実現してくれている。
―― 佐藤
たしかにそうです。
―― 原田さん
自分がここでカレーをつくってあげると、近所のあの子が笑顔になって喜んでくれる。そういったダイレクトな感情の交換ができるので、お互いにすごく癒されます。もちろん困っている子どもに栄養を摂らせてあげることが目的ですが、あげる方も実はいろいろな喜びをもらっている。
―― 佐藤
両方がうれしいです。
―― 原田さん
しかも日本全国に拠点がいっぱいあって、その拠点はゴハンをつくる機能を有している。災害時にも食材があれば料理をして配る拠点になるし、ローリングストック機能があればエリアの貯蔵庫にもなっている。これはものすごくエフェクティブ(効果的)だと思いましたね。
―― 佐藤
災害のために何かを準備しておくのは困難ですが、子ども食堂のような場は本当に重要だと思います。日常の豊かさを実現しつつ災害時にも機能するだけでなく、原田さんの言うように、誰もがそこに参加できて、幸せとか豊かさを感じあえる。
―― 原田さん
やはり災害時に大切なのは、モノや食も当然ですが "つながり" とか "ご縁" が重要なんですよね。子ども食堂って、まさに "つながり" とか "ご縁" をつなぐ場です。
※1 子ども食堂防災拠点化事業
https://aw2023.phasefree.net/award/pfaw2023b030/

原田さんの印象に残るフェーズフリーアワード受賞/入選対象をお話しいただきました
"ただあげる人" も "ただもらう人" もいない社会づくり
―― 佐藤
原田さんが手がけた「道の駅 ましこ」も、まさに "つながり" とか "ご縁" をつなぐ場ですよね。
―― 原田さん
そうですね。
―― 佐藤
つまり、社会の関係性のようなものをつくっているんですね。何かを犠牲にして成り立つのではなくて、皆さんの喜びで運営されているところがさらに良いです。
―― 原田さん
本当に、それが一番だと思います。ただあげる人もいなければ、ただもらう人もいない。一方的なあげるとかもらうとかが、全然ない状態。
―― 佐藤
そういった関係づくりとか、社会づくりって、すごく良いですね。
―― 原田さん
そう、良いと思う。自分と世の中の接続関係が維持される状態が理想ですよね。二つ目に挙げるのは、2021年アイデア部門入選の『空き家利用のコミュニティ備蓄「フェーズフリー住宅」(※2:第1回入選対象)』です。
―― 佐藤
アイデア部門でまだ実現されていませんが、実現性や効果の面でポテンシャルが高いですよね。
―― 原田さん
高いですね。世の中に何百万件と存在する空き家は、現代社会の大きな課題です。空き屋は環境的にも衛生的にも、防犯的にも防災的にも問題を抱えています。それらを備蓄拠点にして、さらにはローリングストックして皆で集って楽しめる場にしようとするのがこのアイデアです。そうすると空き屋そのものにも不動産としての価値が生まれるし、地域の楽しみの場にもなる。
―― 佐藤
アイデアはすごく良いのになぜ広がらないのかを考えると、耐震強度とか老朽化とか、そういった話になってしまうからですか?
―― 原田さん
あとは持ち主が亡くなって、コンタクトが取れないとか。空き屋バンクなどまとめて管理する体制をつくって対策すれば、実現できそうに思いますけどね。
―― 佐藤
空き屋もありますが、最近は空き農地も問題になっていますね。後継者不足で土地が空いてしまう。空き屋バンク、空き農地バンクなどが、うまくマッチングできるといいですね。
―― 原田さん
本当にそうです。さらに言えば空き店舗だって地方にはいっぱいありますね。付加価値が重要になります。その流れで次に挙げたいのが、『小清水町防災拠点型複合庁舎「ワタシノ」(※3:第4回受賞対象)』です。
―― 佐藤
昨年のフェーズフリーアワードで、小清水町町長ともお話ししましたね。
―― 原田さん
お話ししました。この場所は、社会に対しての影響・効果が高いなと思いました。かつての役場といえば、お上の場所なので権威の象徴のようだった(笑)。いわば地域の人々を寄せ付けにくくしているような場所だったわけですが、ワタシノはその逆を行っています。カフェやランドリーが入っていたり、ジムまである。地域の人々の日常の居場所になっているから、庁舎としての敷居がとても低い。
―― 佐藤
子どもや学生、高齢の方など、幅広い人で日常的に賑わっていますね。
―― 原田さん
日常的にこの場所でコミュニケーションが取れるし、いざというときにはここに来ればいいという認識が広がっています。ここで、いろいろなご縁が生まれていますね。
―― 佐藤
ワタシノの場合は、最初に「『フェーズフリー』な庁舎をつくりたい」という相談を受け、人口が減る中で街のにぎわいを生むことが求められていました。行政がにぎわい施設を考えると、集会所とかイベントホールなどに陥りがちです。
―― 原田さん
大きな空間をつくる感じですね。
―― 佐藤
そうそう、人が集まれる大きな空間です。でもここでは、そうではないと考えたんです。いかに日常的に交流を生みだして、日常的なにぎわいを生みだしていくか。その先に非常時の安心を描く、まさに『フェーズフリー』のコンセプトを織り込んだんです。
―― 原田さん
すごくクレバーなことですよね。公共施設なのでいろいろな制度面でのハードルもあったと思いますが、実現にこぎ着けたのもすごいことです。
※2 空き家利用のコミュニティ備蓄「フェーズフリー住宅」
https://aw2021.phasefree.net/entry_work/pfaw2021i041/
※3 小清水町防災拠点型複合庁舎「ワタシノ」
https://aw2024.phasefree.net/award/pfaw2024b008/

対談はマウントフジアーキテクツスタジオでおこなわれました
これからは「脱標準性」がキーになる
―― 原田さん
頭を使って何かを遂げなくてはならないときにこそ、人間性が発揮されると思っています。子ども食堂もワタシノもその良い例で、これまでの画一的な価値観から抜け出していますよね。脱標準性といいますか。
―― 佐藤
そうですね、脱標準性かもしれないですね。
―― 原田さん
これまでの時代は、標準性に頼ってきたところが大きいです。でもファッションなどもそうですが、脱標準な考えになってきていますよね。デザインにとってもそれはすごく重要で。
―― 佐藤
そうですね。
―― 原田さん
それで四つ目に挙げるのが、『ニュアンスカラーブルーシート(※4:第4回入選対象)』です。これおもしろいです。
―― 佐藤
機能的にはブルーシートとほぼ同じですが、自然色でいろいろな場所になじむという、ユニークなシートですね。
―― 原田さん
災害が起こったとき、いわゆる青い色をしたビニールのシートが風景を支配しますよね。あのときの冷たい、心臓をキュッとされたような感じ。それをこのプロダクトが和らげてくれていると思うんです。でも派手でカラフルというのではなくて、花見の際にもキャンプのときにも主張しすぎないアースカラーというのがいい。
―― 佐藤
ブルーシートはたしかに見た目からブルーな気持ちになりますね……。
―― 原田さん
そうそう、もちろん役立つし。申し訳ないけれど、非常時の象徴のようになってしまっている。花見のときだって、どうせ敷きつめられるなら、ブルーよりもなじみやすいアースカラーの方がいいですよね。
―― 佐藤
たしかに、よくよく考えてみたら、『フェーズフリー』の価値観にすごくマッチしていますね。
―― 原田さん
そうでしょう(笑)。そして最後に挙げるのは、『オンデマンド交通サービス for resilienceフェーズフリーMaaS(※5:第3回受賞対象)』です。
―― 佐藤
交通弱者・逃げ遅れゼロを目的にした、地域のデマンド交通(予約により運行する輸送サービス)を有事の避難送迎に活用する新たな交通の仕組みですね。選んだ理由を教えてください。
―― 原田さん
地方の過疎地などで、バス交通の維持が難しくなってくると、タクシー会社などと協定を結んで、高齢者の方々のお買い物や日常の足をつくろうという取り組みが生まれます。実際に、社会実装されてきていますよね。
―― 佐藤
そうですね。
―― 原田さん
そのときに、日常的にドライバーさんが地域の方々の状況をつかんでいて、たとえば、一人では歩けない方がいるとかわかっているわけです。そういった一つひとつの情報が蓄積されて、いざというときに「あそこのおばあちゃんは大丈夫か?」と行動できるんですね。
―― 佐藤
たしかに、そういうことですね。
―― 原田さん
日常時からのつながりが、非常時にすごく生かせるのですね。よく考えてくれたと思う。
―― 佐藤
地域の状況や状態を、日常的にストックしていくのですね。
―― 原田さん
そう、データとしても蓄積されますし、その前にドライバーさんの血肉の中に貯まっていきます。まさに、生物サーバーですよ。
―― 佐藤
すごい(笑)。
―― 原田さん
生物サーバーって、あったかいですよね。そこもすごくすてきです。
―― 佐藤
原田さんの話を聞いていると、"あっちとこっち" をつくらないけれど、でも、揺らぎながら重心というか "あっちとこっち" のポイントを見出しているように感じます。
―― 原田さん
あっちがダメで、こっちが良いというのではなく、あっちがあって同時にこっちも充実しているという状態にしてあげることが大切です。そうとらえたときに、『フェーズフリー』は本当に良い考え方だと思いますよ。
―― 佐藤
おもしろいお話をありがとうございました。今度のフェーズフリーアワードでもどんなものに出合えるか楽しみです。引き続きよろしくお願いします。
―― 原田さん
こちらこそよろしくお願いします。
※4 ニュアンスカラーブルーシート
https://aw2024.phasefree.net/entry_work/pfaw2024b024/
※5 オンデマンド交通サービス for resilience「フェーズフリーMaaS」
https://aw2023.phasefree.net/award/pfaw2023i190/

対談を終え握手を交わす原田さん(左)と佐藤
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