
アナウンサー
武田 真一さん
(2025.3 実施)
写真・文:西原 真志

フェーズフリーアワードでファシリテーターを務めるアナウンサーの武田真一さん
「つながり」には、大きなパワーがある
―― 佐藤
武田さんとお会いして早くも4年、フェーズフリーアワードに参画いただいて3年が経過しました。対談も3回目となり、これまで武田さんの歩みや報道・災害への思いなどについてたくさんお伺いできましたが、やはり災害や防災に関しては武田さんのライフワークといいますか、大きなキーワードになっていますね。
―― 武田さん
はい。NHK時代は直接的に防災・減災報道をしていたこともあって勉強しなくてはという意識もありましたが、今はどちらかといいますと、一個人として被災地とどうつながっていこうか? ということを意識して行動しています。この「つながる」というのが結構、大きなカギになるんじゃないかって最近直感的に思っているんです。
―― 佐藤
「つながる」ですね。例えばどのようなことですか?
―― 武田さん
私がMCをしている情報番組『DayDay.』でも、出演者やスタッフは起きてしまった災害に対して自分は何ができるのだろう?と常に考えていますけれど、具体的に何をすればいいのかはなかなか見えにくいんです。おそらく視聴者の方も皆さん同じように思っているのではないでしょうか。募金は考えられるけど、ボランティアへの参加はちょっと難しいし、じゃあ自分は何ができるのだろうって。
―― 佐藤
そうですね。
―― 武田さん
そこでできることが「つながる」なんですね。それは難しいことではなくいろんなパターンがありまして、僕が実際行動しているのは、被災地に行って誰かに会って、現地でおいしいお茶を飲んでご飯を食べて、風景や起きている光景を見て帰ってくる、というだけのことなんです。それがカギになるんじゃないかって思っていまして。
―― 佐藤
旅行に行くような感じですね?
―― 武田さん
そう、それなら自分にもできる。具体的な支援も当然大切ですが、被災した地域と何か自分なりの接点や関係を持って、つながっているだけでも大きな支えになると思うのです。
―― 佐藤
被災者の方々が「この場へ足を運んでくれた人に『また来ます!』と言ってもらったことがとても嬉しかった」と、話をしていたことを思い出しました。
―― 武田さん
そうそう。話をするだけでも被災者の方々の力になれますし、それだけでなくて、応援する人と応援される人、つまり、被災者とまだ被災者じゃない人って、実は対等なのだということもすごく感じるんです。誰もが明日は我が身で、被災地に足を運べば学ぶことも教訓も多いんですね。被災者の方々も自分たちの経験をどこかで生かしてもらえるようになるし、いろんなことが『つながって』いく。お金の寄付だけではなかなか難しい、よりリアルな「つながり」を生みだしていける。
―― 佐藤
たしかにそうですね。防災を考えるとき、要支援者・要援護者への対策に重きを置かれがちですが、よくよく考えると災害時の要支援者・要援護者って、自分自身を含め全員なんですよね。だから全ての人のための施策が必要になる。
―― 武田さん
そうそう。
―― 佐藤
僕がこれまで防災をやってきてずっと課題と思っているのが、なかなか自分ゴトにしてもらえないことなんです。でも武田さんの話を聞いていて思ったのは、まずは「つながり」を持つことが大切で、それが自然と自分ゴトになっていく。被災地に支援という形でつながらなくても、観光とか自由な形でつながっていけばいいと。
―― 武田さん
そうなんです。被災地支援とかボランティアというと、大きな壁ができてしまって参加できる人は限られてしまいますけれど、行って何かを食べたり買ったり、地元の人と話してみたり、そこに足を運んで楽しんでみましょうということなんです。それで参加するという難しさが減りますよね。
―― 佐藤
おいしいとか嬉しいとか、楽しいことや面白いことでつながろうというのは、すごく『フェーズフリー』的な発想に近いですね。
―― 武田さん
まさに『フェーズフリー』ですよ(笑)。被災者と未災者を対等な立場で考えることによって、被災地のみならず社会全体をどう変えるかという発想になるんですね。その発想につながる「つながり」は、実はすごく大きなパワーがあると思っています。
―― 佐藤
おっしゃるとおりです。その意味で個々の行動も重要ですけれど、武田さんのメディアの力もとても重要になりますよね。日々の楽しさとか嬉しさを通して、さまざまな「つながり」を生みだしていくような。
―― 武田さん
「つながり」って、とてもありふれた言葉なんですけれど、それが僕らの身を守ることなんだとよく話しているんです。そういう価値観を広げていきたいと思っているところなんです。

武田さんが最近とても大切にしているという「つながり」について、その可能性や重要性をお話しいただきました
"いつも"と"もしも"の両面が大切
―― 佐藤
「つながり」というキーワードがありましたが、武田さんに参画いただいているフェーズフリーアワードもいろんなつながりを育む場です。今年2025年で5回目を迎えましたが、これまでの受賞対象で印象に残るものをご紹介いただけますか。
―― 武田さん
3点紹介するとのことでしたが、4つ紹介していいですか?
―― 佐藤
もちろんです。
―― 武田さん
一つ目は『アシックス ランウォーク(※1:第1回受賞対象)』です。日常時は革靴としてビジネスシーンで使えるけれど、アシックスのスニーカーの技術が活かされているから非常時にも歩きやすくて安心です。まさに『フェーズフリー』という印象です。
―― 佐藤
東日本大震災の際にたくさんの帰宅困難者が出て、都心部で仕事をしていた人たちは郊外の自宅まで遠距離を歩かざるを得ませんでした。女性はヒールだったり、男性は硬い革靴だったり歩行も大変で、それ以来ロッカーなどにスニーカーを備えておこうというキャンペーンもありました。
―― 武田さん
それから10年以上が経過しましたが、いまどのくらいの方がロッカーにスニーカーを入れているのでしょうかね。
―― 佐藤
あまりないでしょうね……。その意味で『ランウォーク』は、ビジネスシーンでも使える革靴であると同時に歩きやすいシューズでもあるというのは、ビジネスシーンで活動する方々に解決策を提供していますよね。
―― 武田さん
『ランウォーク』は"いつも"の価値が極めて高いところもポイントですね。その観点で、次に『今治市クリーンセンター バリクリーン(※2:第2回受賞対象)』を挙げさせていただきます。ゴミ問題という社会課題に向き合いつつ、"いつも"と"もしも"の両面で、地域の拠点となる存在になっています。
―― 佐藤
平成17年に11町村が合併し、今治市は18万人の都市になりました。当然ながらそれだけのゴミ処理施設も必要になります。でもゴミ焼却施設って、どの地域においてもその特性上あまり歓迎されないんですよね。
―― 武田さん
ああ、たしかに。
―― 佐藤
そこで今治市さんはいち早く『フェーズフリー』を採り入れてくださったんです。ゴミ処理という機能をきちんと果たすことはもちろん、"いつも"は気軽に楽しめる機能を充実させて地域の皆さんが集まる場に、"もしも"の際は人々の安全や安心を守る防災施設になります。だから住民の方々にとっても、とても価値のある場になっているんですね。
―― 武田さん
行政主導の公共としての責務を担う施設が『フェーズフリー』を採り入れたという意味では、本当に大きなことですよね。
―― 佐藤
そのとおりで、今となっては『フェーズフリー』のシンボル的存在になっています。

対談はフェーズフリー協会の会議室でおこなわれました
つながっていくことが、社会全体を強くすることにつながる
―― 佐藤
続いてご紹介いただくのは『オフグリッドモバイルベース(※3:第3回受賞対象)』とのことですが、その理由を聞かせてください。
―― 武田さん
最初に触れた時にすぐピンと来たわけではないのですが、よくよく考えていくと、すごく「汎用性」が高いなと気づいたんです。トイレカーとかキッチンカーとか特定の機能を持ったいろいろなクルマがありますが、この『オフグリッドモバイルベース』はある種の閉ざされた空間を創出する機能だけです。なのですが、逆にそれがいろんな役立て方につながります。この発想って、何か大きなヒントになるような気がするんです。
―― 佐藤
これはトヨタさんがフェーズフリーアワードに提案するプロジェクトチームを組んで考えてくださったものなんです。シンプルな箱をクルマと連動させて、多用途に利用することができる。ふだんは楽しい賑わいを生みだしたり、被災地でもいろんな使い方ができたり、空間を創出するという機能がいろいろ活躍するんですね。
―― 武田さん
そう考えると、いろんなことが考えられて、じわじわと面白い受賞対象だと思ったんです。汎用性の高さがスゴイなって。最後に挙げるのは『アイラップ(※4:第4回受賞対象)』です。その理由は、昔からあったものが『フェーズフリー』として取り上げられることが多くありますが、その一つの象徴かなと思ったんです。ふだんからのいろんな使い方のアイデアとかが盛り上がっていて、それらが実は災害のときにもとても役立つ。非常時に役立つモノが日常時に使えるというのではなく、日常時に便利に使えるモノが非常時にも活躍するという、逆の発見みたいなところが面白いですよね。
―― 佐藤
まさにそうなんですよ。『アイラップ』が日常時とか非常時を押し出していたのではなくて、利用者さんがいろいろ盛り上がって「これは『フェーズフリー』だ」という口コミで広がって、いろんな視点で多様な活用がされるようになりました。
―― 武田さん
それも大きなヒントですよね。
―― 佐藤
そうですね。『フェーズフリー』という言葉があることによって、いろんな活用方法や価値の広がりにつながったという良い事例ですね。
―― 武田さん
僕がいま大切にしている『つながり』についても、「つながりって『フェーズフリー』」と言ってみれば、何か見えてくるものがあるように感じますね。
―― 佐藤
そうそう、何か特別なことじゃなくても見えてくるものがありますし、また何かを思い描きやすくなりますよね。さらに発展させて、『フェーズフリー』なつながりとは何かを考えてみるのもいいですよね。ちなみに武田さん、今年のフェーズフリーアワードのテーマをご存じですか?
―― 武田さん
何でしたっけ? (目の前のポスターを見て)あっ! 「えがおがつながる」なんだ!
―― 佐藤
そう、「つながり」なんですよ。
―― 武田さん
すごい、つながってる(笑)。でも本当にそうなんですよ。被災地に行って観光したり写真を撮って発信したりするのは皆さん後ろめたいところがあったりすると思いますが、でも実はそうじゃない。今こうなんだよ、だけど、こんなにおいしいものがあるし、こんなに素敵な風景があるし、こんなに元気な人たちがいる。行けば楽しいことだってたくさんある。そんな風につながっていけば、やがて社会全体を強くしていくことにもつながると思うんです。そういう価値が広がっていくといいなと思っています。
―― 佐藤
そうですね、今回のフェーズフリーアワードはもちろん、引き続き『フェーズフリー』の拡大にも力を貸してください。よろしくお願いします。
―― 武田さん
こちらこそ引き続きよろしくお願いします。

約2時間の対談を終え握手を交わす武田さん(右)と佐藤
※1 アシックスランウォーク
https://aw2021.phasefree.net/award/pfaw2021b041/
※2『今治市クリーンセンター バリクリーン』
https://aw2022.phasefree.net/award/pfaw2022b007/
※3『オフグリッドモバイルベース』
https://aw2023.phasefree.net/award/pfaw2023i029/
※4『アイラップ』
https://aw2024.phasefree.net/award/pfaw2024b001/
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