
第1部は「フェーズフリーが実現する毎日の豊かな暮らしと災害への備え」、第2部は「フェーズフリーが生み出すデザインへのインパクト」がテーマでした。
審査委員を務めた多様な分野の専門家が一堂に会し、フェーズフリーの概念が日常生活と災害対策にもたらす影響、そしてデザインの世界にもたらす新しいアプローチについて率直な意見交換がおこなわれました。フェーズフリーという言葉がある程度社会に浸透している現在、新たな価値創造の可能性が広がりつつあることに手応えを感じる一方で、最終審査委員会では「フェーズフリーが正しく伝わっていない」との懸念も共有されました。
2024年のシンポジウムは、審査委員一人ひとりがフェーズフリーへのそれぞれの想いを披露し、フェーズフリーの現在とこれからを議論する場となりました。

フェーズフリーの原点と現在の影響力を探る
審査委員がフェーズフリーへの共感と将来像を語り合った
フェーズフリーアワード2024のシンポジウムでは、審査委員たちがフェーズフリーへの共感や注目した応募対象について熱心に議論を交わしました。ファシリテーターの武田氏は、フェーズフリーの本質的価値が正しく伝わっていないという懸念を踏まえ、その原点と現在の影響力を探る質問を重ねました。

フェーズフリーへの熱い想いに共感する
委員たちの発言を通じて、フェーズフリーの本質が日常生活の質向上にあり、それが社会のレジリエンスを高め、非常時の暮らしも改善する包括的なアプローチであることが再確認されました。興味深いのは、審査委員会自体がフェーズフリーな場だという指摘です。さまざまな分野の専門家が集まり、新たな気づきや学びを得られる場として機能していることが実感できる発言でした。

審査委員と参加者が一体となり議論し合う場面も
岩田実行委員長は、シンポジウム終了後の挨拶で、公共施設のフェーズフリー化が人々の暮らしを守る上で大きな社会的意義があると強調しました。さらに、フェーズフリーを「人類の英知」と評し、安全で豊かな社会の構築と企業の新たな価値創造につながる概念だと位置づけました。
委員長はさらに、国や地方自治体による積極的な取り組みが進む中、世界中でフェーズフリーが当たり前になることを目指して今後も努力を続けていく決意を表明しました。

受賞式が終わりホッとした表情の受賞者
このシンポジウムは、フェーズフリーが単なる災害対策を超え、日常生活の質向上と社会全体のレジリエンス強化を目指すアプローチであることを改めて示す機会となり、参加者全員がその可能性と重要性を再認識する場となりました。

盛大な拍手の中シンポジウムが幕を開けた
第1部 フェーズフリーが実現する毎日の豊かな暮らしと災害への備え

シンポジウム第1部がスタート
シンポジウム第1部では、武田真一氏をファシリテーターに迎え、奥村委員、阪本委員、櫻井委員、須﨑委員、佐藤委員が登壇し「フェーズフリーが実現する毎日の豊かな暮らしと災害への備え」について語り合いました。

司会進行を務めた武田ファシリテーター
今回のテーマが原点回帰ともいえる内容である理由を問われた佐藤委員は、フェーズフリーという言葉の認知度が高まったものの、日常時と非常時の両方で使えるものであればよいという不十分な理解が広がっているため、フェーズフリーが本来日常生活を豊かにすることに軸足を置いていること、そのうえで非常時にも役立つものであることをあらためて確認したい、と述べました。

フェーズフリー協会の佐藤唯行
印象に残った応募対象について櫻井委員は、事業部門でSILVERを受賞した北海道小清水町の防災拠点型複合庁舎「ワタシノ」を挙げ、カフェやジムを備えコミュニティ形成の場になっている点がレジリエンスを高める意味でも有効だと述べました。阪本委員は、この庁舎がコインランドリーを備えており、災害時に必要不可欠な洗濯機が設置されている点に心打たれたとコメントしました。

デジタル、レジリエンスが専門の櫻井審査委員
審査の中でフェーズフリーが日常にいかに役立つかが熱心に議論されたことについて、櫻井委員はフェーズフリーの5原則の中のうち「日常性」や「普及性」にあたる部分を重視して審査したことに触れ、利用者の間に境界線を引かないオープン性が大切だと述べました。須﨑委員は、非常時の提案をまず検討しそれが日常時にどう役立つのかを考えることが多いと述べました。そのうえで、「非常時に備えることで得られる安心感があるならば、そこに無理に日常の価値を付け加える必要はないと思うが、非日常も含めて日常と考えられるように啓発していく必要がある」とも語りました。

オープンイノベーションが専門の須崎委員
今後への展望として、阪本委員はふだんからものが少ない状態で生活することに慣れる必要があるのではと語りました。トルコでは数十リットル単位で水の買い置きをするのが普通で断水しても人々の間に動揺が見られなかったこと、そして能登半島で被災した際は身の回りにあるもので暮らすしかなかった経験からの提案です。

防災教育が専門の阪本委員
櫻井委員は、フェーズフリーの世界観の中で生き残るためにデジタルデータの活用が促進されるべきだと指摘しました。データで情報を入手することによってさまざまな問題を可視化し分析可能にする取り組みを進め、人間がフェーズフリーな環境に自らを適応させる努力も必要だと語りました。

情報発信と生活が専門の奥村委員
奥村委員は気候変動に対応した新しい生活様式を模索することの必要性を指摘。須﨑委員はフェーズフリーなデザインが実現するまでの経緯を共有する重要性に触れ、佐藤委員は日常のあらゆるものをフェーズフリー化することにより社会全体がフェーズフリーになっていく可能性にあらためて言及し第一部が終了しました。

非日常も含めて日常と考えられるような社会へ
第2部 フェーズフリーが生み出すデザインへのインパクト

シンポジウム第2部がスタート
第2部では、武田真一氏のファシリテートのもと、玉井委員、根津委員、原田委員、湯浅委員、佐藤委員の各委員がフェーズフリーデザインの可能性と課題について議論を展開しました。

シンポジウムの舵を取る武田ファシリテーター
武田氏の「デザインの楽しさと機能を防災に活かせないか」という問いかけに対し、湯浅委員は子ども食堂の例を挙げ、非常時に人々を支えるものが必ずしも災害支援の目的で作られたものではないことを示しました。
デザインの力と非常時のスペックについての議論では、原田委員が「非常時こそ身近なものが重要になる」と強調し、「ワタシノ」を例に、日常のコミュニティ創出が結果的に非常時の生存能力向上につながるというフェーズフリーの魅力を解説しました。

建築設計が専門の原田委員
フェーズフリーなデザインの具現化について、湯浅委員は「利用者への愛が深いとフェーズを超える」と述べましたが、これは特定の災害や非常事態だけを想定したデザインではなく、人々の日常生活をより良くしようという思いから生まれたデザインこそが、結果的にあらゆる状況下で人々を支える力を持つという意味であると思われます。したがって、根津委員が感情面での満足や幸せの重要性を指摘し、玉井委員があらゆる生き物の幸福を追求するデザインの必要性を主張したことも、湯浅委員の主張の延長線上にあると考えてよいかもしれません。

社会活動が専門の湯浅委員
佐藤委員は、フェーズフリーがビジネスとして成立することの重要性を強調しました。普及している商品こそが非常時にも身近にあって役立つこと、フェーズフリーデザインが暮らしのバリューになることを説明し、企業にフェーズフリー化への積極的な取り組みを促しました。

フェーズフリー協会の佐藤唯行
一方で、玉井委員はプロダクト以外の商品でのフェーズフリー実現の難しさを指摘し、武田氏もフェーズフリー商品への投資がオーバースペックに感じられる場合があると述べました。これに対し、原田委員はデータ収集・分析による定量的効果の提示が可能になればフェーズフリーの有効性の説得力が増すと述べ、佐藤委員は日常時の豊かさを丁寧に説明することの重要性を強調しました。

デザインが専門の玉井委員
根津委員の最後のコメントは、個々の小さな取り組みが総体としてフェーズフリーの正しい姿を伝えるという、参加者全員が目指す未来像を示唆しました。

デザインが専門の根津委員
2024年はフェーズフリー提唱から10周年の節目の年です。このシンポジウムは、フェーズフリーが日本の常識となっていく未来を参加者全員で実現しようという強い決意を共有する場となりました。デザイン、ビジネス、社会貢献など多角的な視点からフェーズフリーの可能性と課題が議論され、その概念がより深く、広く社会に浸透していくための重要な一歩となったと言えるのではないでしょうか。

深い愛はフェーズを超える
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