フェーズフリーアワード2024 最終審査委員会
2024年7月30日、第4回フェーズフリーアワードの最終審査委員会が千葉工業大学のスカイツリータウン®キャンパスで開催されました。フェーズフリーが持つ本質的な価値を伝えるために何をどう選ぶべきなのか。最後まで審査委員たちが悩みながら挑んだ、受賞対象決定のプロセスをご報告します。

和やかで自由な雰囲気の中で活発な議論がスタート

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日常の価値をきちんと持つことの大切さ

フェーズフリーアワード2024のキャッチコピーは『「いつも」を良くする。「もしも」を良くする。「みんな」がほほえむ。』ですが、半数以上の委員が3回以上審査に携わっていることもあり、キャッチコピーどおりの和やかで自由な雰囲気の中で会議が始まりました。

ただし、佐藤委員は挨拶の中で「フェーズフリーの意味が曖昧なまま、ある種のトレンドワードとして身近なものになってきている」との懸念を話題にしました。フェーズフリーは本来「備えることを前提とせずに、ふだんの暮らしを豊かにしているものが、もしもの時の生活や命も守るようにデザインすること」です。しかし "日常時と非常時の両方で使えるものであればいい" といった、本来の意味からずれた形で世の中に広がりつつある面がないとはいえません。「日常生活の質の向上に軸足を置くというフェーズフリー本来の意味が伝わるものを、みなさんと一緒に自由な柔らかい雰囲気の中で選んでいきたい」との言葉には、世の中にフェーズフリーの本質的な価値をきちんと伝えたいという想いが込められていました。

新たな切り口で選考が行われたアイデア部門

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好奇心の先にたどり着くフェーズフリー

アイデア部門の選定は、事前に106から26にまで絞り込まれた応募対象に各審査委員が10票を投票し、仮の順位付けがされた状態からスタート。得票の少ないものから順に、最終投票の対象とすべきかどうか検討していきました。

アイデア部門の受賞対象選定にあたり最も注目を集めた点は、フェーズフリーによって恩恵を受ける対象は人間だけではない、という考えが示されたことでしょう。

「livestock shelter」は、非常時に家畜を避難させるアイデアが事前投票の段階から支持され、多くの得票を集めました。しかし、日常時に誰に対してどのような価値提供をしているか説明できないのではないか、との疑問が提示され議論が止まるかに思われました。

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人だけでなくすべての命に目を向けて

その時、アニマル・ウェルビーイングの観点から本アイデアが提供する環境は家畜にとってより快適な生活環境の提案となりうる、と意見を述べたのが玉井委員です。一般的な家畜の飼育状況の過酷さを例に挙げた解説を受けて、委員たちから次々に「人間だけでなくあらゆる生き物がフェーズフリーの対象となりうる」という考え方への新たな気づきと賛同の声があがり、Goldに決定したのが印象的でした。

Silverに選ばれた「STAY UPSTAIRS!」は、災害時避難タワーが日常生活からの一時避難場所や若者が集まる場としても機能する点、屋外の階段がにぎわいの創出につながる点が評価されての受賞でした。

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アイディアの素晴らしさと実現性のバランス

Bronzeについては事前投票で得票の多かった「宇宙(ソラ)×Eye(アイ)」を推す声もありましたが、大企業の提案とはいえ一企業による実現へのハードルの高さを指摘する意見が出て、空き家を身近な備蓄倉庫として活用するアイデア「サシイレ」の受賞となりました。

議論の中で評価が見直されたのは「合法化建築の余白書」です。「戦後の闇市から形成・維持されてきた新宿の歓楽街には、戦争や災害に自発的に対応してきたフェーズフリーなコミュ二ティの力がある。それをリセットするのではなく、更新しながら継承していくための提案ではないか」との原田委員の指摘により最終投票の対象となりました。

事前投票で得票の多かった「Off Grid Table」やアプリ「ローリングスタート」については、アイデア自体の評価は高かったものの、商品化を見据えた安全性、利便性、維持管理方法などについて検討が不十分ではないかとの声があり受賞を逃しました。

最後まで議論が尽きなかった事業部門

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被災地支援の経験を生かして

事業部門では、事前に58から54まで絞り込まれた応募対象に各審査委員が10票を投票。アイデア部門と同様、得票の少ないものから順にGold、Silver、Bronzeの対象とすべきか検討をおこないました。

「どう優劣をつければいいの」と声が挙がるほどレベルの高い提案が多く、委員たちが受賞対象の選定に苦慮する様子が見られました。その中で最終的な順位決定に影響を与えたのは、佐藤委員の「フェーズフリーがうまく伝わるものを選んでほしい」との発言から始まった議論です。

湯浅委員の「うまく伝わらないのはなぜだと思いますか」との問いかけを受けて、2人のやりとりは「フェーズフリーが日常生活の価値向上に役立つという側面をうまく伝えられていないのでは」という結論に落ち着きます。

玉井委員からは「フェーズフリーが足りていないところや使われていなかったところ、そこに目を向けて選ぶ必要もあると思うので悩ましい」との発言も出て、アワードでの受賞をフェーズフリーの認知度向上や適用範囲の拡大につなげる必要性も示されました。

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受賞対象の提案レベルが上がり選定に苦慮

最終的には「私たちの身近にフェーズフリーなものがあったんだと気づきを与えられるものを選んでほしい」との佐藤委員の言葉を受けての選定となりました。

結果として「ラップ式トイレラップポン」がGold、「小清水町防災拠点型複合庁舎」がSilver、「水循環型手洗いスタンド『WOSH』」がBronzeに決定しました。

Bronzeに関しては事前投票で得票が多かった「災害時返却カーリース」や「広域自衛のIoT通信インフラ構築専用機『Geo Base』」も最後まで候補に残りました。しかし、「WOSH」がインフラを縮小していく方法の一つのチャレンジであること、装置に改善の余地はあるものの災害時のQOLを向上させる手段として非常に有効であることから、WOTA株式会社が目指す未来への共感を示したいとの意向で最終的な順位が決定しています。

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審査に新しい視点を提示しさらに深い議論に

「林業資材運搬型ドローン『いたきそ』」とコミュニティ醸成のためのアプリ「GOKINJO」も最終投票の対象になりました。ドローンは令和6年能登半島地震の被災地で山間部の孤立地帯に薬を運ぶなど非常時の利活用が進んでいますが、林業従事者の負担を減らすという日常の価値提供と結びついたことが高い評価につながりました。また、「GOKINJO」については、日常時にコミュニティを一から形成するための手厚い支援ノウハウが良い評価をうけています。

この他に、日本海側では非常に普及率が高いとされる「アイラップ」について、身近なフェーズフリーに気づくきっかけにふさわしいと推す意見もありました。

フェーズフリーとは何かを伝えていくために

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フェーズフリーへの期待を胸に

「事業部門の応募対象の中から何を選ぶかはフェーズフリーとは何かを考えることに直結する」との発言があったように、受賞対象が発するメッセージやその分かりやすさはフェーズフリーの今後に影響を及ぼすポイントです。

今回は特に「フェーズフリーが日常生活への価値提供を主軸としている」ことが伝わりやすいものを選ぶ方向で審査がスタートしましたが、結果的には今までフェーズフリーなアイデアが用いられていなかった分野への目配りが重視された印象です。

審査委員会で挨拶に立ったシンポジウムの司会者・武田真一氏が述べたように、「フェーズフリーとは何か」「フェーズフリーには何がどこまでできるのか」という問いに審査委員たちがどう応えるのか、授賞式とシンポジウムが待たれます。

フェーズフリーアワード2024 最終審査委員会-9

長時間に及ぶ最終審査委員会を乗り越え最後は笑顔でP(フェーズフリー)ポーズ

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