一人ひとりそれぞれの『フェーズフリー』を楽しむ

アナウンサー

武田 真一さん

2023年の第3回フェーズフリーアワードより、審査委員会への参加やシンポジウムでファシリテーターを務めているアナウンサーの武田真一さん(以下:武田さん)と、フェーズフリー協会代表理事の佐藤唯行(以下:佐藤)による対談がおこなわれました。日々報道の立場から視聴者や災害などに向きあう武田さんに、今感じること、そしてこれからの『フェーズフリー』などについて伺いました。
(2024.9 実施)

写真・文:西原 真志

武田さんとの対談-1

アナウンサーとして幅広いメディアで活躍する武田真一さん

『フェーズフリー』という言葉をパワーワードに

―― 佐藤
昨年の対談で、武田さんのこれまでの歩みや、アナウンサーとしてどのように災害などに向きあってきたのか伺いました。そんなお話を伺ってまた、今年の初めに能登半島地震が発生してしまいました。

―― 武田さん
多くの方が亡くなり、今も多数の方が困難な暮らしを強いられています。中継で現地に入りましたが、スマホなどの通信が何度も途絶してしまいました。その際に衛星回線が活躍したのですが、TV放送についても日本はさまざまな場所に鉄塔を建てての地上デジタル放送が続いています。砂漠や険しい山中など自然環境の厳しい土地では鉄塔は建てられませんから、そういった地域では全部衛星放送になっています。課題はあるとは思いますが、私たちも衛星放送の可能性を考えることがあっても良いと、報道の立場からは感じましたね。

―― 佐藤
武田さんは能登半島地震の現地に足を運んで、『フェーズフリー』で本当にどうにかできるのか? と疑念も感じられたと聞きました。

―― 武田さん
日常時にも非常時にも役に立つという『フェーズフリー』の可能性はとても大きく、災害という問題を解決できると信じています。しかし、今目の前で起きたこの災害を乗り越えられるのか?と思ったのも事実です。災害の現場に身を置くと、世の中に『フェーズフリー』が満たされることを、いろんな危機は待ってくれない、とあらためて実感したということなんです。

―― 佐藤
それは常々思っています。災害は『フェーズフリー』の浸透を待ってくれない、だから早く広めていかなくてはと。

―― 武田さん
例えば能登でも建物の耐震性がやはり必要だと考えさせられたわけですが、単に耐震等級を高めてくださいと言ってもほとんどの方が参加できません。日常に付加価値を加えつつ、災害時にも守ってくれるという、そんな『フェーズフリー』のベネフィットをくじけずに伝え広げていくしかないですよね。

―― 佐藤
そうなんです。一般の生活者の目線を重視しているのですが、『フェーズフリー』という言葉がみんなの共通のキーワードになって、そこからいろんな『フェーズフリー』が自然発生的に生まれるという、そんな可能性を信じて今も取り組みを続けています。

―― 武田さん
審査委員会やフェーズフリーアワードに出席して、「災害対応」という言葉はパワーワードだという話が印象に残っています。それは確かにそうで、「カーボンニュートラル」とか「サステナブル」とか「多様性」とかいっぱいありますよね。『フェーズフリー』という言葉そのものも、パワーワードになっていくものだと思いますが。

―― 佐藤
おっしゃるとおりです。まさにそこで武田さんのお力をお借りしたいんです。

※前回対談記事はこちら
https://jn.phasefree.net/2024/02/15/interview-aw2023-01/

武田さんとの対談-2

対談はフェーズフリー協会の会議室でおこなわれました

『フェーズフリー』という言葉から、いろいろな可能性が広がる

―― 佐藤
僕は『フェーズフリー』が、武田さんがふだん接している老若男女の視聴者さんたちに伝わらなきゃいけないと思っているんです。その人たちが参加しなくてはいけないし、参加できるようにならなくてはいけない。武田さんがMCを務めるTV番組『DayDay.』が、いつもエンターテイメントとして情報を伝えているみたいに、楽しいとか嬉しいとか、そんなところで伝わっていくべきと思っているんです。

―― 武田さん
そうですよね。僕は毎日毎日そういったことと格闘しているんですね。世の中で起きているあらゆる困りごとを扱っていくと、だいたい先ほどの多様性だとかサステナブルとか、大きな言葉につながっていくんです。

―― 佐藤
そうですよね。だから僕も、社会の課題を課題のままで提起するのではなくて、人々が前向きな形で「あっ、これで解決できるんだ」みたいなことを提示していきたいと思っているんです。なるべくハードルを低く簡単にしていきたいと思っていまして。

―― 武田さん
フェーズフリー認証品の『アシックスランウォーク』は良い例ですよね。災害時に役立つのはもちろんですけれど、そもそもこれを履けば日常的に歩くのがラクになって健康寿命が延びて、やがては医療費が削減されるといったような。これを積み重ねていくと、我々はまだまだ生きられるというところに行き着くのではないかと感じるんです。

―― 佐藤
健康寿命を延ばすことを社会課題にしてしまうと難しくなってしまう一方で、『ランウォーク』のように歩きやすくしてくれるという、そんな身近な一歩から始まっていると参加しやすいですよね。

―― 武田さん
本当にそうです。

―― 佐藤
防災も、備えると考えてしまうと難しい。だったら備えることを前提としなければ参加しやすいよね、というのが『フェーズフリー』なんですね。自分の経験でも、例えば環境対策と言われても何をしていいかわからなかったけれど、エコ、つまり環境に良いエコロジーとか、お得なエコノミーとか、そういった言葉によって途端に参加しやすくなったのを覚えています。

―― 武田さん
電気代が安くなるとか、こっちの方が省エネとか、単純にカッコいいとか。

―― 佐藤
エコカーだって、環境に良いというのはありつつも、燃料代が安くすむメリットもあります。そういった世の中のいろんな提案の中にエコが入ってきて、社会全体が良くなろうとしている。『フェーズフリー』もそれをすごく参考にしたんです。

―― 武田さん
しだいに皆さんの認識が浸透したというか、育まれていく感じですね。

―― 佐藤
そうなんです。その部分で特に武田さんには助けていただきたいんですね。最初はおトクだとか便利だとか、嬉しいとかカワイイとか、きっかけはなんでもいいんです。そんなところから入っていく中で、あぁ実は『フェーズフリー』って非常時にも目が向いているんだと気づきがあって、それでもっと広がっていく。いろんなきっかけを武田さんに蒔いていただけたらって思っているんです。

―― 武田さん
『フェーズフリー』って非常時にも役に立つけれど、日常を便利に気持ちよく、もっと自由に楽しくしてくれる。そんな存在だと思っているんです。昨年も今年もフェーズフリーアワードの応募対象をみていると、それは本当に実感します。『フェーズフリー』という言葉から、こんなにも可能性が広がるんだって。

―― 佐藤
『フェーズフリー』という言葉があると、まずデザインが変わるんですよね。例えばどんなコップをつくろうかという時に、あまり選択肢は多くありません。だけどフェーズフリーなコップというと、デザインやアイデアの広がりがすごく出てくる。

―― 武田さん
非常時のことを考えていながら、日常も楽しくなっていく姿が想像しやすくなるのですね。

―― 佐藤
『フェーズフリー』という言葉がうまくインプットされると、デザイナーやクリエイターだけでなく、多くの生活者もそれができるようになると思うんです。今年のフェーズフリーアワードのシンポジウムでもキーワードになりましたよね。パネリストの中から出てきた「フェーズフリーな人」という言葉がまさにそれです。『フェーズフリー』を考え続けるというよりも、私たち自身が『フェーズフリー』になっていくという。

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武田さんとの対談-3

能登半島地震や報道についてなどさまざまなことをお話しくださいました

フェーズフリーな人、フェーズフリーなライフスタイルを考える

―― 武田さん
災害対応という観点で言いますと、僕は情報をお伝えすることによってできる限り多くの人の命を守りたいと思っているんです。でも情報だけでは、命を守ることはできないのが現実です。つまり皆さんの備えが不可欠であって、備えを身を守るという行動に移すトリガーとして情報を発信しているんですね。だから備えありきとは常にお伝えしているのですが、やはり備えてもらうって本当に難しいことですよね。

―― 佐藤
そうですよね、備えるって難しくて、多くの方が備えることになかなか参加できません。

―― 武田さん
その意味では、先ほどのフェーズフリーな人、というといろんな可能性が見えてきますね。自分が住んでいる場所を知って日常的に楽しむとか、地元のお祭りが好きとか、いろんなことが考えられます。

―― 佐藤
そうそう。

―― 武田さん
例えば昔はたくさんあった井戸だって、本来はすごく『フェーズフリー』ですよね。でも、近代文明の名のもとにいつの間にか消えてしまっている。

―― 佐藤
暮らしそのものが脆弱になっているということですよね。

―― 武田さん
そう、便利なんだけど、脆弱になっている。フェーズフリーな人になるとは、宅地とか工場にするのではなくて湧水公園をつくるとか、地域のお祭りが好きで参加するとか、ブラタモリ的(※1)な楽しみ方を日常的にエンジョイするといったイメージですかね?

―― 佐藤
確かにそれも一つの『フェーズフリー』ですよね。社会の脆弱性というと大げさかもしれませんが、実は一人ひとりに脆弱性があって、しかもそれぞれ違うんです。だから備えとか解決策も千差万別で、いろんな形がある。例えば一つの例として、ミニマリストってそうかもしれないですよね。非常時でも最低限のもので生活を維持していけるという、知恵を日常的に育んで暮らしている。フェーズフリーな人ですよね。

―― 武田さん
なるほど。

―― 佐藤
本当にいろんな『フェーズフリー』があって、誰かの『フェーズフリー』が正解じゃない。自分の人生や暮らしの豊かさをつくっているものが、実は非常時にも役立つという文脈を理解すれば、いろんな『フェーズフリー』に参加できるようになるのではないでしょうか。

―― 武田さん
それはまさに、フェーズフリーな人ですね。人それぞれに違いがあっていいというのも良いですね。

―― 佐藤
そう。近所づきあいだったり、カラダを鍛えるだったり、ミニマルに暮らすだったり、何だって自分にとっての『フェーズフリー』でいいんですね。いろんなフェーズフリーな人がいると思うので、いつかベストジーニスト賞みたいに、ベストフェーズフリー何とか!? みたいなこともできたら面白いなぁ、なんて考えているんです。

―― 武田さん
ベストフェーズフリースト!? ベストフェーズフリージスト!? それは面白いですね。

―― 佐藤
言葉はどうなるか分かりませんが、フェーズフリーな人とか、ライフスタイルとかを知って皆で共有できるって、とても楽しそうだし興味深いですよね。

―― 武田さん
うんうん、確かに興味ありますね。

―― 佐藤
災害などにつながる問題や課題はこれからも無限に生じていくわけですが、そういったいろんなフェーズフリーな人とかライフスタイルが無限に生まれてくれば、無限の解決策にもつながっていくと思っているんです。

―― 武田さん
おっしゃるとおりです。フェーズフリーアワードも来年で5回目になりますけれど、フェーズフリーな人とか、人それぞれの『フェーズフリー』といったキーワードが、またこれからの進化につながっていきそうですね。

―― 佐藤
そうですね。多様なものに多様で対応していくというところに、『フェーズフリー』の可能性を感じています。繰り返しになってしまいますが、その感覚のようなものが社会にうまく伝わらないと、従来の防災などと変わらなくなってしまいます。そういったところを武田さんに伝えていただきながら、もっとスピードを上げて『フェーズフリー』を世の中に広げていきたいと思っていますので、引き続きよろしくお願いいたします。本日はありがとうございました。

―― 武田さん
ありがとうございました。こちらこそよろしくお願いします。

※1:タレントのタモリ(森田一義)さんが、ブラブラ歩きながら知られざる街の歴史や人々の暮らしに迫る番組(NHK)。

武田さんとの対談-4

対談を終え握手を交わす武田さん(右)と佐藤

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