機能だけではなく、"感情的な満足"を『フェーズフリー』に

株式会社FEEL GOOD CREATION 代表取締役

玉井 美由紀さん

2022年開催の第2回フェーズフリーアワードから審査委員を務める玉井美由紀さん(以下:玉井さん)と、フェーズフリー協会代表理事の佐藤唯行(以下:佐藤)による対談がおこなわれました。3回目の対談となる今回は、玉井さんが代表を務める株式会社FEEL GOOD CREATIONのオフィスにお邪魔し、玉井さんの新たな取り組み『SENSE-Laboratory』や玉井さんが今考える『フェーズフリー』などについてお話しいただきました。
(2024.6 実施)

写真・文:西原 真志

玉井さんとの対談-1

CMFデザインの第一人者として、幅広いクリエイティブに携わっている玉井美由紀さん

持続可能な社会を実現するための、つながりをデザインしていく

―― 佐藤
玉井さんとはもう3度目の対談です。『フェーズフリー』は、左脳的な「Think Good」だけでなく、もっと感性や情緒に訴えかける右脳的な「Feel Good」が大切になるなど、玉井さんらしいアドバイスをたくさんもらいました。今回は玉井さんがスタートした新たな取り組みである『SENSE-Laboratory』についてまずはお話しいただきたいのですが。

―― 玉井さん
ありがとうございます。今年(2024年)の5月頃に「サステナブル素材を通じて持続可能な社会を叶える」をテーマにした『SENSE-Laboratory』を立ち上げました。簡単に言いますと、環境に配慮した素材を創出したり、伝えたり、活用したい人や企業とマッチングを促進したりすることで持続可能な社会につなげ、循環することが当たり前の社会を実現していくためのプラットフォームです。

―― 佐藤
元々手がけていた『CMF ®TOKYO-SENSE』の延長線上にある取り組みですか?

―― 玉井さん
そうです。『CMF ®TOKYO-SENSE』は、素晴らしいものづくり技術をデザインで翻訳し広く伝える取り組みで、"サステナブル素材" に特化したのが『SENSE-Laboratory』です。「環境に良い」や「持続可能な」などを楽しくポジティブに取り入れていくためには、情緒的な満足が重要だと思っています。感性や美意識といった意味を持つSENSEと人と人、技術と技術をつないでいくLaboratoryを合わせて、『SENSE-Laboratory』としました。

―― 佐藤
玉井さんを知っている者からすると、玉井さんそのものというか、ずっとやり続けてきている気がするのですが、何か今までの玉井さんと違う試みがあるのですか?

―― 玉井さん
CMFデザインを活かしたサステナブルな活動はずっと取り組んではいるものの、オフィシャルに事業化したのが今回の『SENSE-Laboratory』という感じです。

―― 佐藤
『SENSE-Laboratory』から見えるのは、すごく広くて奥深いテーマですが、だれもが知りたいことですし取り入れたいテーマでもあります。

―― 玉井さん
そうですよね。今までの知見やコストではクリアできなかったけれど、今までの合理性を追求するものづくりの考え方を変え、持続可能なプロセスで需要と供給が上手くマッチングできたらクリアできるかもしれません。そういった可能性を広げられる場をつくっていきたいと思っているんです。

―― 佐藤
持続可能な社会をつくることだけでなくて、そこを目指すための場をつくっていくということですね。

―― 玉井さん
そうです。これをやれば良いとか正解とか、分かっているわけではないんですよね。正解を模索するいくつかの方法があって、それもあるかもしれないしもっとこっちの方がいいかもしれないと、いろんな視点が入ることがまず重要なんです。その意味では、誰かが上からジャッジするのではなく、みんなで悩むことが大切です。また、受け取る側の消費者も賢くならなくてはいけません。グリーンウォッシュという言葉もあるくらい、良くも悪くもサステナブルはビジネス戦略に使われています。情報を受ける側が正しく受け取って、正しく判断していくということが大切です。

―― 佐藤
それ、すごくよく分かります。『フェーズフリー』も受け取る側の理解や判断に頼る部分が大きいのです。最近は特に言葉が一人歩きして、関係のないものまで『フェーズフリー』と言われたりしています。そんな状況で一つひとつに「これは正しい」「これは違う」とジャッジしていくのは不可能で、『フェーズフリー』を正しく発信して正しく受け取ってもらい、広げていくことが大切だと。もしかしたら『フェーズフリー』にも、『SENSE-Laboratory』のようなプラットフォームがあったらいいのかもしれませんね。

―― 玉井さん
私がこのプラットフォームに期待しているのは、もちろん持続可能な社会の実現というのはありますが、最も大きいのは "つながり" なんですよね。つながりによってできることが増え、不可能を可能にすると信じています。

―― 佐藤
なるほど。つながりに期待する、つながりをデザインしていくということですね。それは『フェーズフリー』にも不可欠ですね。

■ SENSE-Laboratory
https://senselab.green/

玉井さんとの対談-2

対談はFEEL GOOD CREATIONのオフィスでおこなわれました

サステナブルにも、フィール・グッドを

―― 佐藤
僕が『フェーズフリー』を発信しはじめてちょうど10年なんですが、サステナブルやSDGsなど世の中にはさまざまな言葉というかコンセプトが存在します。玉井さんはサステナブルに注力しはじめたわけすが、どうやって育んでいくというか浸透させていこうと考えていますか?

―― 玉井さん
押しつけるのではなく、結局、みんなで考えるしかないと思っているんです。一人で考えるよりも10人で考えた方がアイデアは多く集まるのは当然のことで。それを地道に重ねていくしかないのかなって。それを楽しく進めたい、楽しければ続けられますし、他の人も仲間に入りたくなりますから。もちろん経済的にも成立することが大切です。みんなで出しあった知恵で利益を得て、みんなでシェアをする、そんなふうに広げられたらいいなと思っています。

―― 佐藤
『SENSE-Laboratory』にいろんなサステナブルが集まってきて、それをつなげていくのですね。

―― 玉井さん
そうです。『SENSE-Laboratory』は、3つのコンテンツで成り立っています。一つは「サステナブルを当たり前にする」を目標に、サステナブル商品を生みだし実装するための研究所「ラボラトリー」です。「当たり前」を実現するために人や技術がつながり、実装を目指していきます。二つめはものがたり的につくり手の想いを伝える読み物である「マガジン」、そして三つめが、実際にサステナブル素材を使って魅力を実感するためのEC機能付きデータベースです。
『SENSE-Laboratory』全体として環境負荷低減というだけでなく、美しい、魅力的など、付加価値となる "感情" も結びつけて考えています。

―― 佐藤
まだスタートして間もないですが、広がりは感じますか?

―― 玉井さん
まだまだこれからですが、広がる可能性はとても感じています。……と言いますか、広がらないとまずいよねって考えています。世の中にサステナブル素材が増えないことになるわけですから。近年は特に増えてきているとは思いますが、まだまだ足りません。私たちが目指しているのは、わざわざ「サステナブル」と言わなくても、それが当たり前の世界です。最終的にこのプラットフォームがなくなるときが、サステナブルが当たり前になった時なんだと思います。

―― 佐藤
『フェーズフリー』を語る中でも、サステナブルというキーワードが頻出します。主に2つの文脈で語られることが多いのですが、一つは「『フェーズフリー』はふだんの暮らしそのものを豊かにするから、その取り組み自体が持続的なものになる」ということ、もう一つが「ふだん使っているものやサービスを非常時にも役立てられるから、ずっと暮らしを維持していける手助けになる」ということ。そういった点がサステナブルであると。同じ言葉ではありますが、いろいろな捉え方がありますよね。

―― 玉井さん
私が主に重視しているのは、受け手がサステナブルと感じることも大切ですが、それに加えて "感情的な満足" を確保することなんです。

―― 佐藤
なるほど、感情的な満足。玉井さんの根本的なテーマであるフィール・グッドですね。

―― 玉井さん
はい。フェーズフリーグッズでもサステナブル素材でも、利便性や刹那的欲求(流行)だけでいいんですか? ということなんです。満足感や愛着などがあって長く使えるものとは違い、商品のライフサイクルが短くなってしまうとより安価な労働力が求められ、農薬による土壌汚染とか森林伐採、廃棄物の増加などにも直結していきます。 何かの犠牲の上に成り立つ価値ではなく、みんなが平等に満足できる、喜べる価値があると思うんです。環境に負荷をかけないだけでなく、感情的な満足もそこにちゃんと同居しているという。

―― 佐藤
そのとおりですね。利便性を追求するだけじゃなく、私たちの暮らしの喜びや楽しみも不可欠で、それがないとサステナブルにならない。人々の感情や気持ちによりそえていないと、結局持続していかないんですよね。

―― 玉井さん
本当にそうなんですよね。

玉井さんとの対談-3

『SENSE-Laboratory』や『フェーズフリー』への想いをお話しくださいました

フェーズフリーアワードを、共感から共有する機会に

―― 佐藤
フィール・グッドと機能性を兼ねそなえた事例として、何か思いつくものはありますか?

―― 玉井さん
すでに世の中にいっぱいありますけど、何か一つというのは難しいですね。サステナブル素材でも、活用のされ方で変わってきますし、使い手がどう捉え使うかで価値も変わってしまいます。でも最近、産業革命以前のものが結局サステナブルなのではないかと思います。人の手で作られたものは壊れても直すことができますし、結果長く使うことができます。直して使い続けることで愛着もわきますし。

―― 佐藤
玉井さんは前回の対談で、『フェーズフリー』の究極は愛だって言ってくださいました。覚えてます?

―― 玉井さん
そうそう、「『フェーズフリー』とは?」という質問があって、2つは用意していたけど「もう一つ答えて」と急に言われて……(笑)。

―― 佐藤
愛って、先ほどの話と同じくより添えているかとか、感情に訴えかけられているかということでもあったのかなと、話を聞いていて感じました。

―― 玉井さん
そうですね。『フェーズフリー』って、当初は自助的なものが多かったように思うのですが、最近は共助をテーマにしたものがすごく増えてきていますよね。結局何かあった時に地域とか人とのつながりや助けあいは大切で、『フェーズフリー』としても大きなテーマになっています。

―― 佐藤
そうそう。

―― 玉井さん
それでいうと前回の愛じゃないですけど(笑)、結局大切なものとしての性能や一時的な満足じゃなくて、そこなんじゃないかとすごく思うんです。

―― 佐藤
フェーズフリーアワードの審査委員も今回で3回目ですが、期待するところとしては、そのあたりですか?

―― 玉井さん
そうですね、共助は大きなキーワードになると思います。また共助にプラスして、共有ももっと進むといいなと思うんです。フェーズフリーアワードも、授賞式と懇親会で終わるのではなく、もう少しその先があってもいいのかなって。

―― 佐藤
同感です。

―― 玉井さん
つながりが生まれて、さらに共有までいくといいですよね。

―― 佐藤
たしかに、『フェーズフリー』の共感は広がっていますが、共有はまだまだ道半ばです。どうしたら共有できるのでしょう?

―― 玉井さん
めちゃくちゃ大変ですけれど、時間をかけてやっていくしかないですよね。共有って知識や利益をシェアするということだけではなくて、課題を一緒に考えたり悩んだりしないと生まれません。共有を活発化する意味でも、さらにつながりが広がるフェーズフリーアワードになればいいなと思います。

―― 佐藤
つながりを広げていくためにも、引き続きご協力をお願いいたします。今回もありがとうございました。

―― 玉井さん
ありがとうございました。

玉井さんとの対談-4

対談を終え握手を交わす玉井さん(左)と佐藤

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