株式会社三菱総合研究所 コーポレート部門統括室副室長
須﨑 彩斗さん
(2024.8 実施)
写真・文:西原 真志
ロボットを "人の心を動かすインターフェース" に
―― 佐藤
須﨑さんと4回目の対談にあたって、共通してプロジェクトなどをご一緒しているユカイ工学の青木さんにも入っていただき3人で話したいと考えました。僕が青木さんと出会ったのはまだフェーズフリー協会ができる前で、「BOCCO(※1)」を知って、これは『フェーズフリー』だと感じて青木さんに直談判したんです(笑)。ユカイ工学と須﨑さんの出会いとはどのようなものでしたか?
―― 須﨑さん
スタートアップ企業をはじめ、自治体や教育・研究機関と連携して、さまざまな社会課題の解決を目指す「未来共創イニシアティブ(ICF)」という取り組みをしているのですが、その活動を通して知り合いました。
青木さんは元々「チームラボ」を起業するなど活躍されていて、すでに有名人でした。ユカイ工学でいろんなアイデアを形にしていますが、このプロダクトを売らなきゃみたいな目線ではなくって、もっと中長期的に独自のアイデアやプロダクトをしっかり世の中に届けていきたいという意思があって、そこがすごいなと感じています。
―― 佐藤
青木さんのものづくりに対する想いとか目的はどのようなものですか?
―― 青木さん
そうですね、まずは一家に一台ロボットがある世界をつくりたいと思っていまして。
―― 佐藤
そもそもどうしてロボットにこだわるのですか?
―― 青木さん
スマホがみんなに浸透したみたいな、そんな象徴的なプロダクトがまた何かあると感じているんです。その中でも、人に優しいロボットがあったらいいなと。生産性を高める産業用ロボットは進化し続けていますが、人の情緒的な部分をサポートしてくれる存在となるロボットがいたらいいですよね。
―― 須﨑さん
「BOCCO」や「BOCCO emo」はまさにそんな存在ですね。
―― 青木さん
実際に「BOCCO」シリーズのユーザーさんからは、スマホじゃなくてかわいいロボットがメッセージを伝えてくれるのが嬉しいという意見がとても多いです。「BOCCO」をリリースするまでは明確になっていなかったのですが、やはり同じ情報でも、誰が届けてくれるのかというのは、人にとってとても大事なのだと気づかされました。
―― 佐藤
「BOCCO」は、どのように思いついたのですか?
―― 青木さん
自分の子どもが鍵っ子になってしまったのがきっかけでした。一人だと寂しいだろうけど、小さな子にスマホやタブレットを渡してしまうのはいろんな意味でリスキーです。それなら家で相棒というか、友達みたいになってくれる存在がいたらいいなと思って、そんな気持ちから生まれたのが初代「BOCCO」でした。
―― 須﨑さん
「BOCCO」のように、ロボットをかわいらしくするとか、人っぽく寄せるとかって、日本やアジア圏で多いのですかね?
―― 青木さん
展示会などでもそれは感じますね。アニメや漫画の文化もあって、「ロボットは友達だ」というイメージが、日本人やアジア圏では強くあるのかもしれませんね。
―― 佐藤
ユカイ工学でそういったロボットというか存在を考えるとき、何か皆さんで共有している定義はあるのですか?
―― 青木さん
僕たちのロボットの定義は、"心を動かすインターフェース" です。ロボットがいることで勇気づけられたり癒やされたり、心を動かすというところが、ロボットならではだと思っているんです。
※1
「BOCCO」
https://cf.phasefree.net/product/pf0320007/
「BOCCO emo」
https://cf.phasefree.net/product/pf0524029/
ストレスなどの社会課題に寄り添うことを考える
―― 佐藤
いわゆる産業用の機械的なロボットの時代から、「BOCCO」シリーズみたいなかわいらしいコミュニケーションロボットをつくって、「甘噛みハムハム」という、人の指先をハムハム甘噛みするという機能に特化したプロダクトまで生みだし、そういったユニークなものもロボットと呼んでいるのですね。面白い(笑)。
―― 青木さん
2015年に「BOCCO」を出したのですが、その頃はまだ業界的にも社会的にも二足歩行で歩かないものはロボットじゃないといった風潮でした。
―― 須﨑さん
確かにロボットというと、これまでは人間の全部なり一部を代替するといった意味合いが強かったですよね。でも今はロボットがいかに人を気持ちよくさせるかとか、補完するかとか、ロボットの概念が広がっていますね。
―― 佐藤
ロボットは人の心を動かすインターフェースと捉えると、ロボットの可能性がかなり広がりますね。
―― 青木さん
そうですね。例えば、全自動洗濯機だって完全にロボットなんですよね。でもなぜか、洗濯機に名前を付けてかわいがっている人はいない。
―― 須﨑さん
あれ本当だ。どうしてだろう(笑)
―― 佐藤
うちの事務所には人工生命体と言われる「LOVOT」や、青木さんの「BOCCO」、ロボット掃除機「Roomba」や「Braava」も活躍していますけれど、確かに洗濯機と違って、それらにはなぜか感情移入できてしまうところがある。
―― 須﨑さん
確実に違いがありますよね。フィジカルな動きとか、完璧すぎないところとか、そういったあたりに惹かれるのでしょうかね。
―― 青木さん
充電がきちんとできていないと途中で力尽きたりして、そんなところも感情移入の理由になるのかも知れませんね。
―― 佐藤
その意味では、ロボットの定義とは心を動かすインターフェースであるとしたのは、大正解なのでしょうね。
―― 須﨑さん
そう思いますが、難しい面もあります。社内で妄想会というアイデア発表会をよくやりますが、「甘噛みハムハム」は最初ボツネタでした。甘噛みの仕草を研究している人は世界にいないですし、社内で試作を重ねようやく実現にこぎつけた感じです。
―― 須﨑さん
特にコロナ禍以降は、ストレスやメンタル系の課題が社会的にずいぶんと表出しました。そういうときに生みだすのは大変だと思いますが、一つのデバイスとしてこういったユカイ工学さんのプロダクトがあって、そこにさらにコンテンツが載っていくと、いろんな広がりにつながっていきますね。
フェーズフリーアワードを、『フェーズフリー』な行動をするきっかけにする
―― 佐藤
須﨑さんが取り組んでいる「ICF」では、6つの社会課題をテーマにしているのですよね?
―― 須﨑さん
「ウェルネス」「教育・人材育成」「水・食料」「エネルギー・環境」「モビリティ」そして「防災・インフラ」と大きく6つに分類して取り組んでいます。
―― 佐藤
今日お話をしてきて、あらためてユカイ工学のポテンシャルや一緒にビジネスができそうと感じるところはありますか?
―― 須﨑さん
分野を問わず、いろんなところであるなと思っています。例えば "照明" というキーワードがあったとすると、エネルギー環境面においても、睡眠をはじめとしたウェルネスの視点でもいろんな観点から、人の心や感覚に合わせて考えていくことができます。人の気持ちを感じ取って、必要な場面で効果的に反映することができる、そんなポテンシャルが非常に高いですよね。
―― 佐藤
僕の場合は『フェーズフリー』がテーマなのですが、その視点でもたくさんの可能性がありそうだと感じています。人の心を動かすロボットを通して、いつもを豊かにすることはもちろん、非常時などにも役に立つといったことを一緒に考えられたら面白いですね。
―― 青木さん
タネはいっぱいあるので、ぜひ一緒に考えていきたいです。
―― 須﨑さん
ICFでも、多種多様な領域のプレイヤーが参加して、社会の課題解決に向けてオープンイノベーションを積み重ねています。『フェーズフリー』においても、やはりいろんな分野・領域で活動している方々がもっとオープンに共創していくことが大切なんですね。
―― 佐藤
おっしゃるとおりです。オープンイノベーションが大切です。その意味でもフェーズフリーアワードは重要な機会になるんです。
―― 須﨑さん
そうですね。フェーズフリーアワードで発信されたアクションや情報などを、受け取った側が『フェーズフリー』な行動に変換する。フェーズフリーアワードが、そんなきっかけを提供していく役割を担っていると思います。
―― 佐藤
フェーズフリーアワードはもちろん、これから一緒に何かを生みだすプロジェクトも進めましょう。本日はありがとうございました。
―― 須﨑さん・青木さん
ありがとうございました。
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